インターネットを利用した大学公開講座の現状と課題


伊藤 さおり

1.研究の目的

 情報化社会の到来と共にネットワーク環境の整備が進んでいる現在、一般家庭にパソコンが普及し、新しいコミュニケーションの手段としてインターネットが注目されている。そのような状況の中で、教育の在り方も変わりつつある。文部省の『マルチメディアを活用した21世紀の高等教育のあり方に関する懇親会 報告』には、「マルチメディア技術の進展や、インターネットによる世界的なネットワークの普及は、社会の分野に大きな影響を及ぼし始めている。そこで、高等教育の分野においても、マルチメディアが教育内容・方法の充実等のために大きく活用できる可能性が高まってきた。」(「マルチメディアを活用した21世紀の高等教育の在り方について」, http://www.monbu.go.jp/singi/jm14002.html)とある。教育におけるインターネットの活用は、重要な課題であると言えるであろう。

 インターネットを利用した教育を考えるにあたって、ネットワーク環境の整っていると言える「大学」における生涯教育の提供の場である「公開講座」に着目してみた。大学公開講座は「大学において、その教育機能や研究の成果を広く社会一般に開放するために、その大学の教員が中心となり、一般社会人を対象に講義等を行う事業の総称。」と定義されている。(山本,1990,p.155)インターネット上での大学公開講座は、現在どのように運営されているのだろうか。そして、インターネットを利用することにより、大学教育の成果をどのように開放していけるのであろうか。

 本研究では、まず、大学公開講座に関する記述のあるホームページの開設状況を調査し、現状を明らかにした。そして、インターネットを利用した大学公開講座のホームページの所在を明らかにした上で、その講座について、受講料、受講対象者、講座の目的、講座の内容、講師・受講者間や受講者同志の交流、レポートの提出・修了証書について現状をあげ、インターネット上で運営される講座の意義・目的、科目履修単位の認定、について分析する。それらの現状から、インターネットを利用した大学公開講座の課題について考察することを目的とする。



2.大学公開講座のホームページ調査について

 インターネットを利用した大学公開講座のホームページの所在を明らかにするために、大学公開講座に関する記述のあるホームページの開設状況の調査を行った。以下に、第1節で、調査方法と結果を明らかにし、本研究の対象とするホームページを限定する。第2節で、調査における公開講座に関するページへのアクセス方法について考察する。

2.1 大学公開講座のホームページ開設状況

 本研究に用いるデータとして、インターネットを利用した大学公開講座のホームページの所在を明らかにするため、1997年11月1日から同年12月29日までの2ヶ月の間調査を行った。調査は、「サーチエンジン」「大学のリンク集」にリンクされている日本の大学、短期大学のホームページを対象に行った。サーチエンジンでは「YAHOO!JAPAN」(http://www.yahoo.co.jp/)、大学のリンク集では「大学マップ」(http://www.you-net.co.jp/link2/daigaku/)を用いた。「YAHOO!JAPAN」は、「大学」というカテゴリーのもとに大学・短期大学が都道府県別にリンクされているという理由から、「大学マップ」も「YAHOO!JAPAN」と同様に大学・短期大学が都道府県別にリンクされているという理由から選んだ。

 リンクされていた大学(以下、短期大学も含む)のホームページの総数は、625個あり、その全てのホームページを参照して公開講座に関する記述のあるものを調査した。公開講座に関する記述とは、1:公開講座または、市民講座、オープンカレッジ、開放講座など「開かれた大学」をめざして開催される講座であること、2:講座という文字の入っているもの、3:大学または大学の機関による講座であること、以上の条件を満たすものである。サーバの故障や、エラーなどでつながらない大学もいくつかあった。調査の結果、公開講座に関する記述のあるホームページは、212個あることがわかった。ただし、本研究では大学または大学に関連する機関による公開講座のホームページを対象としているので、大学のホームページにリンクされていても大学職員が個人的に作成している公開講座に関するホームページは、対象外としている。

 この調査の結果を、公開講座に関する記述の内容から以下のように分類した。下表はその分類の結果である。
1)講座名・趣旨・日程・申し込み方法などの講座の案内のみ
2) 1)に加えて、講座のテキスト(講義内容)・資料
<表1 公開講座に関する記述のあるホームページの分類結果>

1) 2)
ホームページ数 201 11 212
95 100

 この表から、1)の講座の案内のみのホームページが、公開講座に関する記述のあるホームページの全体の95%を占めていることがわかる。つまり、大学公開講座においてのインターネット利用は、講座案内が主流であることがわかった。

 しかし、全体の5%ではあるが、インターネット上で公開講座の講演を再現したり、インターネット上のみで公開講座を実施するというように、インターネットを利用した大学公開講座もある。

 ここで、本研究はインターネットを利用した大学公開講座についての考察を目的としているため、この調査の結果から、第3章・第4章の考察の対象を、2)の講座のテキストを掲載しているものに限定する。講座の案内だけでは、インターネットを利用した公開講座とは言えないと考えるからである。以下に、2)に分類される11のホームページの大学名とアドレスを挙げる。学部もしくは、機関で講座を運営している場合は、それを記す。

愛知県立大学
  http://www.aichi-pu.ac.jp/open/
大阪市立大学
  http://www.hosp.msic.med.osaka-cu.ac.jp/koho/vuniv97.htm
信州大学;教育学部
  http://cert.shinshu-u.ac.jp/news/ken0804e.html
専修大学;経営学部
  http://www.senshu-u.ac.jp/~thm0175/opensemi.html
東海大学;開発工学部
  http://www.fb.u-tokai.ac.jp/kouza/
姫路獨協大学
  http://www.himeji-du.ac.jp/koukai97/tutorial.html
兵庫教育大学;学校教育研究センター
  http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp/index.html
法政大学;工学部
  http://www.hosei.ac.jp/ceng/event/internet.html
宮崎公立大学
  http://LL7.miyazaki-mu.ac.jp/PUB/Public_Lectures/Pub-lecture-books.html
山梨大学;教育学部付属教育実践研究指導センター
  http://www.cer.yamanashi.ac.jp/seminar/ei97/
琉球大学;情報工学科
  http://bottom.ie.u-ryukyu.ac.jp/~yas/inet-extension/

2.2 公開講座の情報へのアクセスについての考察

 公開講座に関する記述を調査するにあたっての情報へのアクセスの手順について、ここで触れておくこととする。

 調査では、まず、各大学のホームにアクセスし、ホームから公開講座の情報がどこにあるのか調べた。この際に、ホームに「公開講座」の表示があった場合、容易にその情報にアクセスすることが可能であったが、表示がない場合、「イベント情報」や「お知らせ」、「新着情報」などの様々なページを参照したために時間がかかった。また、大学のホームページにリンクされている各大学の機関のホームページも参照した。機関とは、公開講座に関係すると考えられるもの、つまり、地域共同教育研究センター、生涯学習センター、大学開放実践センター、エクステンションセンターのことである。

 公開講座の情報をインターネット上に流したからといって、多くの人に読んでもらえるとは限らない。容易で、わかりやすいアクセスができなければ、情報を手に入れることも難しい。よって、大学側はホームページを作成する際に利用者の立場になってみることが、重要である。そして、利用者もじっくりと探索するゆとりを持つことが大切である。



3.インターネットを利用した大学公開講座の現状

 第3章ではインターネットを利用した公開講座のテキストについて考える。

 第1節で講座のテキストを3つのタイプに分類する。その分類をもとに、第2節で受講料・講対象者について、第3節で講義の内容について、第4節で講師・受講者間、受講者同志の交流について、、第5節でレポートの提出、終了証書について分析を行う。3章での考察にあたり、講座名、受講対象者、期間(日程)、レポートの提出の有無についての表を作成した。

<表2インターネットを利用した公開講座の現状>
講座名 大学名 受講対象者 期間 レポートの提出
マルチメディア教材開発 信州大学 教育関係者34名 1996.8.4〜5 記述なし
インターネットと教育 山梨大学 現職教員、一般市民、学生30名 全4回
1997.5.31〜1998.1.10
記述なし
未来を拓く情報科学 愛知県立大学 記述なし 全6回
1997・5・23〜6・27
記述なし
ネットワーク社会とニュービジネス 専修大学 社会人ならびに学生100名 全11回
1997.10.2〜12.11
記述なし
インターネット講座 法政大学 記述なし 全10回
1996.9.211〜1・23
記述なし
パソコン講座(中級) 姫路獨協大学 記述なし 1997年 記述なし
21世紀を展望する〜地球と宮崎から 宮崎公立大学 記述なし 1995年 記述なし
インターネットによる情報通信の体験学習 琉球大学 記述なし 1995年夏休み 記述なし
地図に見る地形の形成史 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
結び目理論 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
C言語への招待 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
骨粗鬆症の基礎と臨床 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
食品の物性とゾルーゲル転移 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
>日本的流通システムが変わる 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
インターネット概論 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
在宅医療の医療経済(インターネットフォーラム) 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1997年 年3回程度
修了証書あり
医療経済学 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1996年 なし
結び目理論 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1996年 なし
劇場国家・ビザンツ帝国 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1996年 なし
高齢化社会の福祉 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1996年 なし
英語で学ぶ日米社会 大阪市立大学
インターネット講座
50名 1996年 なし
映像時代をどういきるかpart1 東海大学
バーチャル公開講座
限定なし 全3回
1996.7.12〜12.4
あり
映像時代をどういきるかpart2 東海大学
バーチャル公開講座
限定なし 全4回
1997.5.30〜12・5
あり
エネルギーと環境 兵庫教育大学 50名 1996.6〜1997.2
全9回
なし
アメリカ合衆国障害児教育の歴史と発展 兵庫教育大学 50名 1996.6〜1997.3
全10回
なし
What Should People Know About Science? 兵庫教育大学 50名 1996年 なし

3.1 テキストの分類

 本研究の調査により、インターネットを利用した公開講座のホームページを開設している大学は、現在、11校あることがわかった。また、講座数は、26であった。この26の講座のテキストについて、ホームページを参照することにより、以下のように分類することができる。

1) これから会場にて実施する講座の資料(以下「資料型」)
2) 既に会場にて実施された講座の講義録(以下「講義録型」)
3) インターネット上のみでのテキストによる講義(以下「オンライン講義型」)

 以下に、この3つのタイプについての細かい定義と、分類される講座名を記す。

1)「資料型」とは、従来の会場にて行う公開講座において講義の際に配布する資料をインターネット上に掲載してあるホームページのことである。「資料型」に分類されるのは次の2つの講座である。

「マルチメディア教材開発(信州大学)」、
「インターネットと教育(山梨大学)」、

 次に、2)の「講義録型」であるが、これは従来の公開講座を会場で実施した後に講師が講義録をまとめ、ホームページに掲載しているものである。ただし、講義録というレベルまで達していないテキスト、つまり講義の要旨程度のテキストも含んでいる。「講義録型」に分類されるのは次の8つの講座である。

「インターネットで学ぶ在宅学習(愛知県立大学)」
「ネットワーク社会とニュービジネス(専修大学)」
「映像時代をどういきるかPart1(東海大学)」
「映像時代をどういきるかPart2(東海大学)」
「パソコン教室(中級)(姫路獨協大学)」
「インターネット講座〜武蔵の国のホームページを創る(法政大学)」
「21世紀を展望する〜地球と宮崎から(宮崎公立大学)」
「インターネットによる情報通信の体験学習(琉球大学)」

 そして、3)の「オンライン講義型」であるが、これは会場での公開講座は実施せずにインターネット上だけで公開講座を実施するというオンライン講座である。インターネット上にテキストを掲載し、受講者がそのホームページを見て学習するという形式で講義がおこなわれる。「オンライン講義型」に分類されるのは次の16の講座である。

インターネット講座‘97 「地図に見る地形の形成史(大阪市立大学)」
「結び目理論(大阪市立大学)」
「C言語への招待(大阪市立大学)」
「骨粗鬆症の基礎と臨床(大阪市立大学)」
「食物の物性とゾルーゲル転移(大阪市立大学)」
「日本的流通システムが変わる(大阪市立大学)」
「インターネット概論(大阪市立大学)」
インターネットフォーラム 「在宅医療の医療経済(大阪市立大学)」
インターネット講座‘96 「医療経済学(大阪市立大学)」
「結び目理論(大阪市立大学)」
「劇場国家・ビザンツ帝国(大阪市立大学)」
「高齢化社会の福祉(大阪市立大学)」
「英語で学ぶ日米社会(大阪市立大学)」
「エネルギーと環境(兵庫教育大学)」
「アメリカ合衆国障害児教育の歴史と発展(兵庫教育大学)」
「What Should People Know About Science?(兵庫教育大学)」

 また、上記の項目で「大学」ごとに分類した結果を以下に示す。
1) 信州大学、山梨大学
2) 愛知県立大学、専修大学、東海大学、姫路獨協大学、法政大学、宮崎公立大学、琉球大学
3) 大阪市立大学、兵庫教育大学

 この結果を各項目が大学数全体において占める割合を表にしてみた。

 <表3 インターネット上に公開講座のテキストを掲載している大学数>

1) 2) 3) 合計
大学数 11
18 64 18 100

 表から、インターネット上での公開講座のテキストにおいて、2)の「講義録型」が主流であることがわかる。よって、3)の「オンライン講義型」のようなインターネット上のみで公開講座を運営しようと試みている大学は、非常に少ないと言える。

3.2 受講料・受講対象者

 2章で限定した公開講座のテキストについては、インターネット上で自由に見ることが可能である。つまり、受講料は無料である。ただし、会場で実施されている公開講座のなかには有料の講座もある。これは受講を申し込み、直接会場に行き講義を体験する場合のことである。また、受講対象者の限定を行っている講座があるが、これも会場にて実施する場合である。

 また、受講料は無料であるが、東海大学、大阪市立大学、兵庫教育大学では、インターネット上のみでの講座において、受講の申し込みを電子メールで受け付けている。東海大学では、申し込みを受け付けているが、受講の登録をしないことにより特に制限されることはない。大阪市立大学、兵庫教育大学では受講者を1講座につき50名程度に限定し、受講者にのみ講義内容に対する質問が許される。正規の受講者と各講座の担当講師とは、メーリングリストで結ばれ、課題の告知や意見交換が可能となる。年度初めでの抽選にもれたり、途中からの受講の場合、インターネット上のテキストを見ることは自由だが、講義内容に対する質問は受け付けられない。また、50名に限定したのは講師が対応できる許容量を考慮したためであると推測される。

 そして、兵庫教育大学では、97年度からの新しい試みとして「オンライン大学院」という構想で、受講料を払い込むとパスワードが送付され、インターネット上での公開講座を受講できるというパスワードを用いたクローズドレクチャーを採用している。この講座数は6あり、「ノーマリゼーションとネットワークの利用」、「ネットワーク時代のセンス」、「国際化の中の美しい日本語の普及」、「情報化社会の人間関係はどうなる」、「国際理解を人権教育の視点で考える」、「エネルギーの将来と原子力の正しい理解を」、という講座を同大学の教授、助教授が行う。パスワードがなければ、インターネット上でテキストを見ることはできない様になっている。

3.3 講義の内容

 この節では、3.1で分類した項目ごとに、インターネットを利用した公開講座のテキストの内容を考察する。

3.3.1 資料型

 1)「資料型」の場合、講座名からわかるようにインターネットに関係した内容となっている。インターネットを「講義の教材」として利用した公開講座のため、ホームページ上のテキストを見るだけでは、講義を理解することは不可能である。つまり、講義としては成り立たないといえる。

3.3.2 講義録型

 2)「講義録型」の場合は、1:会場で実施した講義の要旨を掲載しているものと2:会場で実施した講義の内容を細かく書き起こして掲載しているものがある。1に分けられる講座は、「ネットワーク社会とニュービジネス(専修大学)」「インターネット講座〜武蔵の国のホームページを創る(法政大学)」である。2に分けられる講座は、「インターネットで学ぶ在宅学習(愛知県立大学)」「映像時代をどういきるかPart1(東海大学)」「映像時代をどういきるかPart2(東海大学)」「パソコン教室(中級)(姫路獨協大学)」「インターネットによる情報通信の体験学習(琉球大学)」「21世紀を展望する〜地球と宮崎から(宮崎公立大学)」である。

 1の場合、会場へ行って講座に参加した人がホームページを見て復習することには役立つが、講座に参加していない人には講義内容を理解するのは難しいと思われる。「ネットワーク社会とニュービジネス(専修大学)」では、講義中の教室内の様子の写真や、講義の要旨に加えて会場での講義終了後に行われた質疑応答についても掲載しており、講義を思い出しながら復習できるようになっている。

 2の場合、講義録として講義に近いテキストを見ることが可能となっている。「インターネットで学ぶ在宅学習(愛知県立大学)」では、スライド形式で図、グラフなどの画像とそれについての説明という講義録になっている。図、グラフなどを用いた講義テキストは、文字だけのテキストに比べ、より理解しやすいといえるだろう。「パソコン教室(中級)(姫路獨協大学)」では、受講者が作成したホームページのリンクを作品集として掲載している。「21世紀を展望する〜地球と宮崎から(宮崎公立大学)」では、<3.1講座の目的>で記したように、既に刊行物として出版されたものをインターネット上に掲載しているのであるが、「はじめに」と「刊行のことば」以外は、見ることができない。

 また、東海大学では、1996年の「映像時代をどういきるかPart1」、1997年の「映像時代をどういきるかPart2(東海大学)」という2つの講座の講義録を掲載して、ヴァーチャル公開講座として継続的にインターネット上での公開講座を企画、運営している。会場で公開講座が実施されてから2週間程度で講義のテキストが見られる。テキストには、音声・映像もあるが、これをダウンロードするには時間がかかるという難点がある。

3.3.3 オンライン講義型

 3)「オンライン講義型」の場合は、オンラインのテキストのみで講義をおこなっているため、本を読んで学習するという方法に近いことを、インターネットにおいて講義形式で提供しているとも言える。講座名からわかるように大学の授業にあるような専門的な分野の講座が多く、内容もかなり難しくなっている。

 大阪市立大学インターネット講座では、同大学の教授、助教授が1つの講座の講義テキストを年間を通じて作成している。講座の受講にあたり、形式的な学歴は関係ないけれども、実質的にはある程度の学問的基礎が必要とされることをことわっている。「英語で学ぶ日米社会」の講義テキストは全文英語で、テキストを理解するには英語の高度な読解力を必要とする。「結び目理論」の講座は96年度、97年度の両年において行われている。97年度のテキストは、96年度のテキストを、よりわかりやすく改良した講義テキストになっているようである。大学での講義を一部再現するような内容のテキストが多いことが言える。

 また、大阪市立大学インターネット講座では、テキストによる講義のほかに「インターネットフォーラム」を公開講座において実施している。これは、主催者側が課題提供論文をホームページに掲載し、それに対する質問や反論、提言等を、電子メールを用いてメーリングリスト方式で討論するというものである。メーリングリストに入っていない場合、つまり、受講者として認められていない場合、討論には参加できない。

 なお、この大阪市立大学インターネット講座は96年度から始めており、現在2年目の講座を企画・運営しており、96年度のテキストも見ることが可能になっている。各年度の開講は4月で、基本的にどの講座も毎月一回講義テキストの更新をおこなっており、講座は全12回の講義になっている。基本的にとしたのは、「高齢化社会の福祉」の講座では3回休講があり、全7回となっているからである。

 兵庫教育大学でも大阪市立大学と同様に、6月に開講し、2月まで毎月一回更新される。「What Should People Know About Science?」の講義テキストも「英語で学ぶ日米社会(大阪市立大学)」と同様に全文英語で、テキストを理解するには英語の高度な読解力を必要とする。

3.4 講師・受講者間、受講者同志の交流

 インターネットにおける相互の交流、つまり電子メールによる大学と受講者、受講者と受講者の間での交流についての現状を分析する。なお、「資料型」である信州大学、山梨大学は、インターネット上で講義を行うという講座ではないため、電子メールによる相互の交流については考慮していないと考えられるため、この考察の対象外とする。

 現在、愛知県立大学、大阪市立大学、専修大学、東海大学、兵庫教育大学では、講座に対する質問を電子メールで受け付けている。ただし、ほとんどの大学において会場で実施する場合の日程、場所、講義概要についての電子メールによる質問は受け付けている。以下に、各大学での現状をあげる。

 専修大学のホームページには、誰でも書き込むことができる「受講者用掲示板」や「メーリングリスト」があり、交流が可能である。「受講者用掲示板」を見たところ、講義についての感想や参考文献についての質問が多かった。

 愛知県立大学では、「質問コーナー」のページに各講義ごとのメールアドレスを掲載して質問を受け付けている。講義内容への質問の場合、質問した本人に対する電子メールでの返答は行っていない。講義内容への質問は各講義の「質疑応答ページ」に掲載している。

 大阪市立大学では、講座の受講を申し込んだ人のなかで、抽選により受講が認められた場合は、メーリングリストで受講者同志や講師の先生と意見交換や議論ができるが、受講が認められていない場合は、ホームページに掲載した講義内容についての質問や意見は受け付けていない。

 東海大学では、講義に対する質問・感想を受け付けているが、返答については記述がない。

 兵庫教育大学でも、講義に対する質問・意見を受け付けているが、返答については記述がない。しかし、受講の申し込みをした正規の受講者に対しては、メールによる返答が行われている可能性があると推測される。

 また、姫路獨協大学、法政大学、宮崎公立大学、琉球大学に関しては、記述がないことから公式には質問を受け付けていないと推測される。

3.5レポートの提出、修了証書について

 インターネット上での公開講座において、レポートの提出を求めている講座がある。その講座についての現状を以下に記す。

 東海大学がバーチャル公開講座として企画・運営している「映像時代をどういきるかPart1」、「映像時代をどういきるかPart2」では、講義の感想をレポートして指定されたアドレスに電子メールで送るという方法でレポートの提出を求めている。送った感想レポートの内容が一定水準に達していると講演者が認定した場合には、その回の講義の認定メールが返送される。全講義の認定メールの返送を受けた受講者は公開講座受講修了証を受け取ることができる。ただし、この修了証は大学の卒業要件としての単位認定とは趣旨も性格も異なるとしている。また、レポート提出の期限については記述がない。

 大阪市立大学のインターネット講座では、96年度の講座と97年度の講座をホームページに掲載している。97年度の講座では年3回程度のレポート提出を求めることとしている。ただし、課題を提示する時期、提出期限は各講座で違う。提出されたレポートのなかで、優秀な論文はホームページ上に掲載することを「開講のお知らせ」のページに記述してある。その例をあげると、インターネットフォーラム「在宅医療の医療経済」では、受講者のレポートを名前を出さずに「受講者Aさん」として掲載している。ただし、あるテーマに対してこういう意見を持っている人がいる、という紹介であって、レポートへの講評はしていない。

 さらに、学年末にレポートの総合評価を行い合格者には大阪市立大学学長名のインターネット講座修了証を授与することとしている。ただし、この修了証は科目等履修生制度には該当しない。

 96年度の講座では、講義テキストから次のような状況であったことがわかる。「劇場国家・ビザンツ帝国(大阪市立大学)」の講座では、大学の講義はどのようなものかを見てもらうという目的で実験的に行っていたので、レポートの提出は求めていなかった。「医療経済学(大阪市立大学)」の講座では、正規の受講者に対してメーリングリストによるレポート提出の要請を行っていたが、その課題を講義テキストにも掲載している。その2週間後には解答を掲載して、正規の受講者ではない人(メーリングリストに参加できない人)にも課題について考える時間を与えていた。

 兵庫教育大学の講座ではレポートの提出についての記述はない。修了証についての記述もない。ただし、正規の受講生に対しては、メールによるレポート提出の要請が行われている可能性があるだろうと考えられる。



4. インターネットを利用した大学公開講座の考察

 この章では、インターネットを利用した公開講座に関して、第1節でインターネット上に講義テキストを掲載する意義・目的、第2節で科目履修単位の認定について、3章で分析した現状をふまえて考察する。

4.1 講座の意義・目的

4.1.1 資料型

 1)「資料型」に分類される講座のホームページの内容は、リンク集、ホームページ作成用教材、マルチメディア教材と様々であるが、インターネットを講義の教材として活用することを目的としている点で一致していると言える。そして、これから実施する公開講座の資料を提供することにより講義の予習にも役立てることが可能になると思われる。また、資料を見ることにより受講を考える際に選択の材料になるとも思われる。

4.1.2 講義録型

 2)「講義型」に分類される講座において、特に「21世紀を展望する〜地球と宮崎から」(宮崎公立大学)に関しては、ほかの7講座と違う点がある。この講座の形式は1995年の公開講座の講義録であるが、既に刊行物として出版されているものをホームページに掲載している。この場合の目的は刊行物の宣伝であることが推測できる。ほかの7講座については刊行物についての記述がないことから、「刊行物の宣伝」と言う目的は含まれないと考える。ほかの7講座の目的として考えられるのは、より多くの人々に受講できる機会を与えることである。会場で実施する公開講座には人数・場所・日程が限られてしまうことから、講座の受講を希望しても受講できない人々がいる。そこでインターネット上で講義録を見ることができれば、会場で受講する講義ほどの学習の成果はなくとも、学習の機会は与えられるのではないだろうかと考える。もう一つの目的として、受講者にとっての講義内容の復習が考えられる。つまり、会場で受講した講義について自宅で再び学習することが可能となる。また、講義内容の復習をしていて疑問が出てきたら講師に質問することができるならば、より理想的である。(講師に対する質問については、「3−5講師・受講者間、受講者同志の交流」で現状を述べる。)

4.1.3 オンライン講義型

 3)「オンライン講義型」に分類される講座については大学という単位で考えてみる。

 この項目に分類される大学は大阪市立大学と兵庫教育大学の2つである。大阪市立大学では、ホームページ上に「インターネット講座を受講される皆さんへ」として同大学の学生に対して教室で行われているものと類似した形で講義を行うと記している。つまり、インターネットを通じて大学の講義を公開するという理念のもとに、より専門的な知識を提供することを目的としていると考えられる。兵庫教育大学でも、ホームページ上に「インターネット上での大学公開講座の運用の考え方と方法」を掲載している。これによると,兵庫教育大学では、大学の講義・レポートの提出などをオンラインで行い、学生がキャンパスに通うことなく学習することが可能な「Virtual Classroom」を構想に入れた公開講座の運営を行っている。ただし、学生だけでなく一般市民を対象にして専門的な知識を提供するという点で大阪市立大学と一致していると考えても良いだろう。

4.2 科目履修単位の認定

 平成3年の中央教育審議会答申では、大学の公開講座で一定水準以上のものについては、大学の単位として認定することも検討すべきであると提言している。そして、平成3年7月には大学設置基準等の改正により科目等履修生制度が創設され、大学が正規の単位として認定するにふさわしい水準にある公開講座については、それを認められることとなっている。しかし、3章で述べた現状から、インターネットを利用した公開講座において大学の正規の科目履修単位の認定は、現段階では行われていない。よって、正規の単位として認定するにふさわしい水準に達していないのであろうと考えられる。

 ただし、衛星通信によるテレビ会議式の公開講座については、平成9年12月の大学審議会答申『「遠隔授業」大学設置基準における取り扱い等について』で「時間的・地理的制約を超えたリフレッシュ教育の取り組みを一層進めていくためには、広く社会人の単位習得の途を開き、学習意欲を高めることが望ましい。」(「4設置基準上の位置付け」,http://www.monbu.go.jp/00000151)としており、企業の会議室等の職場や住居に近い場所において受講する場合にも、大学等の単位の認定が可能となった。文部省では国立大学や高等専門学校等を結ぶ、衛星通信大学間ネットワーク構築事業(スペース・コラボレーション・システム事業)を開始している。

 しかし、現段階では、インターネット上で行われる公開講座については提言されていない。



5. インターネットを利用した大学公開講座の課題

 大阪市立大学の公開講座のホームページには「インターネット講座事務局ニュース」のページ(http://www.hosp.msic.med.osaka-cu.ac.jp/koho/vuniv97/97news.htm)があり、1997年3月26日の記事に「平成8年度インターネット講座の総括」が掲載してある。

 それより抜粋すると、平成8年度の同大学のインターネット講座では、5講座開設された。受講者数は1講座50名として、97年2月14日現在、受講メール数は554通で、アクセス数は28000ヒット(概算)であった。課題と問題点として、以下の3点があげられている。

1:講義の休講および中断の際、受講者に連絡がされなかったためクレームがあり、事務局と各講座担当者との役割分担の取り決めを行う必要があること、
2:受講者のメールに対する返信、レポートに対するコメント及び質問に対する回答、を行っている講座と行っていない講座があり、クレームが多かったことから、講座担当者のそれらに対する対応の問題があること、
3:受講者間のディスカッションができるフォーラムの設置やスクーリングの要望などがあり考慮すべき課題があるということ、

 このような反省をホームページ上に掲載することにより、主催者側がそれらの問題についての対応を考えていることが、受講者に伝わるであろう。また、3のフォーラムの設置については平成9年度から新しい試みとして実施している。受講者の要望に応えていくことにより、講座の内容が充実することが期待される。

 以上のような講座の運営に関する課題、問題点などをホームページに掲載している大学は大阪市立大学の1校のみである。しかし、インターネットを利用した公開講座での課題、問題点として、他の大学においても、大阪市立大学と同じ様なことがあげられると推測される。3章での講師・受講者間、受講者同志の交流についての現状からもわかるように、講義内容に対する質問・意見に返答を行っている講座は非常に少ない。しかし、インターネットを利用することにおいて、電子メールでのコミュニケーションが可能であることは、大きな利点であるといえる。つまり、受講者と講師との電子メールによる相互の交流は大きな課題であると言える。だが、講師は大学の教授、助教授である場合が多く、大学の授業や学会などで忙しいなか、受講者から送られてくる質問にすべて対応するのは非常に難しいと考えられる。したがって、受講者からの質問、意見、レポートなど、回答できる許容量をよく考えたうえで受講者数を限定して行うことや、質問に対する回答をホームページ上に掲載するなどの考慮が重要である。



6. まとめ

 以上、本研究では、大学のホームページにおけるインターネットを利用した公開講座について、ホームページの開設状況を調査し現状と課題について考察した。

 現在、インターネット上で講義のテキストを自由に見られる講座は26あることがわかった。ただし、兵庫教育大学では、「オンライン大学院」という構想のもとに、平成9年度から有料でインターネット公開講座を開始した。講義テキストを見るにはパスワードが必要となっているため、本研究で考察することができなかったのは残念である。

 26の講座の中には、講義のテキストをただオンライン上に掲載するだけで終わらずに、相互の交流を考えて運営している講座があることがわかった。メーリングリストによる講師・受講者間の交流、レポートの提出の要請、修了証の授与を行っている。また、大学の講義のように専門的知識を要する講座も行われており、高度なレベルの学習の場を提供している。

 インターネットを利用する講義の利点として、電子メールによる質疑応答があげられるが、受講者からの質問すべてに回答を行うのは、実際、非常に難しい。受講者を限定することや、インターネット上に質疑応答のページを用意することで、対応しているのが現状である。

 インターネットを利用することにより、誰でも、いつでも、どこからでも、公開講座を受講することが可能になる。つまり、学習したい人が、何の制約もなく学習できるのである。しかし、実際に会場を使って行われる公開講座と比較しても講座の数が少なすぎるのが、問題である。そして、講座の内容もより理解しやすく充実したものにしていかなくては、学習の場を提供しても利用者が増えてはいかないであろう。受講者のニーズに応えていくことも重要であると考えられる。また、講師と受講者との双方向でのコミュニケーションも大きな課題であるといえる。電子メールを使うことにより、相互の交流は可能であるが、実際には、メールへの応答が十分でないという声が受講者からでている講座もあるのが現状のようである。講義録をインターネット上に掲載しただけで終わってしまっては、インターネットを利用した価値も下がってしまうだろう。単にテキストの公開を行っただけでは受講者の学習意欲を高めることや成果を期待することは難しいと言える。

 よって、インターネットを利用した公開講座を、一般の人々に、より充実した学習の場として提供するためには、大学側の努力も必要なのであるし、受講者側でも意見、要望などを積極的に伝えていくことが必要とされる。どの大学もこのような試みを始めたばかりであり、今後の発展を期待したい。



引用文献

山本和人(1990).日本生涯教育学会編,『生涯学習事典』(p.155)

大学審議会答申(1997.12.18).「4設置基準上の位置付け」,『「遠隔授業」大学設置基準における取り扱い等について』(http://www.monbu.go.jp/00000151)

文部省 高等教育局企画課(1996.7.4)「マルチメディアを活用した21世紀の高等教育の在り方について」(http://www.monbu.go.jp/singi/jm14002.html)




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