『図書館学会年報』にみる学校図書館研究

1954年11月(1巻) − 1999年2月(44巻4号)

舟見 明美

1 はじめに

 日本の学校図書館は,学校図書館法(昭28・8・8 法律185号)に基づいて規定されている。同法第1条には学校図書館の目的,第2条には定義,第4条には運営が規定され,学校図書館の意義と機能を明らかにしている。学校図書館とは,学校教育を充実するために,「学校教育において欠くことのできない基礎的な設備である」(第1条)としたうえで,「小・中・高等学校において,図書,視覚聴覚教育の資料,その他の学校教育に必要な資料(図書館資料)を収集し,整理し,及び保存する機能を持つとともに,これを児童又は生徒及び教員の利用に供するのであるが,その目的とするところは,学校の教育課程の展開に寄与すること,及び児童又は生徒の健全な教養を育成することにある」(第2条)としている。

 はたして,日本の学校図書館はその意義や機能が遂行されてきているのであろうか。本稿では,学校図書館を研究という視点から捉え,学校図書館法制定以後の学校図書館研究を,『図書館学会年報』を用いて分析する。それによって,学校図書館研究の動向を明らかにし,研究課題を得ることを目的とする。『図書館学会年報』を用いることによっては,図書館学の中での学校図書館に関する研究を捉えることが可能であると考える。『図書館学会年報』を対象とした理由としては次の2つがある。1つめは,『図書館学会年報』が図書館学界を代表する学術雑誌であること。2つめは,論文掲載にあたってレフェリー制度を用いており,『図書館学会年報』に掲載された論文は図書館学の分野で専門的承認を受けているといえることである。

 扱う論文は『図書館学会年報』に掲載された36の学校図書館に関する論文,研究ノート,記事とする。本稿での選定の基準は,題名に「学校図書館」を含む論文,研究ノート,記事(以下本文中では「文献」とする)とする。

 文献の内容を分析していくにあたって,その扱っている内容の共通点を拾い出すことによって,大きく3つに分類した。1つめは,日本の学校図書館の概念及び歴史を扱った文献。2つめは,外国の学校図書館全般,すなわち概念及び歴史と実態を扱った文献。もう1つは,日本における実態調査及び実務に関する文献である。

 本稿の構成は,2章では日本の学校図書館の概念及び歴史ついて,3章では外国の思想及び実態について,4章では日本における実態調査及び実務についてふれる。さらに5章では,学校図書館研究の年代による傾向とその背景を考察し,6章において全体をまとめる。

2 日本の学校図書館の歴史及び概念

 この章では,日本の学校図書館の歴史と概念を文献に掲載されている事柄によってまとめる。またその後に,全体をわが国の学校図書館研究の課題という視点からまとめる。

 この分類に含まれる文献には,表1に示す8つがあげられる。

表1 日本の学校図書館の歴史及び概念を扱った文献

発行年月 巻号 文献名 著者

1954.11 1巻 学校図書館の8年 深川 恒喜
1963. 7 9・10巻 資料センターとしての学校図書館 室伏 武
1970.12 16巻 学校図書館における「人」の問題 杉山 久夫
1970.12 16巻 わが国における学校図書館の発展過程(学校図書館法以前) 清水 正男
1976. 5 22巻 1号 学校図書館の概念(その1) 柿沼 隆志
1976.10 22巻 2号 学校図書館の概念(その2) 柿沼 隆志
1987. 6 34巻 2号 学校図書館の社会的意味 柿沼 隆志
1996. 6 42巻 2号 自己教育力を育成するための学校図書館利用指導 平久江 祐司

 以下に,これらの内容を示す。文献の内容は,日本の学校図書館の歴史と概念の二つに別けることができ,以下に二つに分けて紹介していく。



 日本の学校図書館の歴史の記述は,「我が国における学校図書館の発展過程」(清水,1970),「学校図書館の8年」(深川,1954),「自己教育力を育成するための学校図書館利用指導」(平久江,1996)によってなされている。清水氏の文献は大正から昭和初期にかけての「学校図書館的存在」の日本的な図書館教育への発展の過程を明らかにしようとしたものである。2つめの深川氏の文献は,終戦後の新教育体制の胎動から,昭和28年の学校図書館法成立に至る8年間の関係者の努力の過程を示している。3つめの平久江氏の文献は,1980年代の教育改革を明らかにし,その上で,学校教育の課題となる,自己教育力の育成に注目した学校図書館利用指導について考察したものである。

 日本の学校図書館の概念については,次の5つの文献があげられる。うち3つは,いずれも柿沼氏によって執筆された,「学校図書館の概念(その1)」,「学校図書館の概念(その2)」,「学校図書館の社会的意味」である。1つめの文献では,<図書館>の概念から,2つめの文献では,<学校>という概念から,いずれも<学校図書館>の概念を明らかにしようと試みている。また,3つめの「学校図書館の社会的意味」では,<教育>を,<人を理想的な状態に近づけようとする,学習への働きかけ>としている。そして,多元的な教育に貢献する学校図書館はいかにあるべきかを導きだしている。また,4つめの「資料センターとしての学校図書館」(室伏,1963)は,学校教育における資料センターの役割を明確化している。資料センターは,生徒のさまざまな興味や能力や成長発達に応じて教育課程を豊かにし,その展開に寄与するべきで,「教育課程研究室」ともいえるとしている。ゆえに資料センターとしての学校図書館は,学校教育において要求されるすべての教育資料の最効果的なコミュニケーションを達成することをその基本的な役割としているとむすんでいる。さいごに,「学校図書館における人の問題」(杉山,1970)では,学校図書館における「人」は, 教師と司書を単に足した司書教諭ではなく,専門職であるとしている。しかし現状では,学校図書館の本質・理念等を明確にするという「人」の問題以前に解決すべきいくつかの問題があるとしている。

 全体としてみると,一つ一つの文献は,わが国の学校図書館の歴史,理論を詳細にたどり,学校図書館の概念を確立しようとしている。しかし,問題となるのは,一つのテーマについて複数の研究者による研究が行われていないことである。それは,学校図書館の歴史を取り上げると,扱われている年代が大正から昭和,昭和28年の学校図書館法成立時期,昭和60年代の3つの時期のみであり,すべての年代が網羅されていない点にもみられる。また,結論部では理論の紹介,抽象的な提案に留まり,具体的な提案がされていないことも学校図書館研究の課題として指摘できる。

3 外国の学校図書館の歴史,制度,思想及び実態

 この章では,外国の学校図書館の歴史,制度,思想及び実態を文献に掲載されている事柄によってまとめる。またその後に,全体をわが国の学校図書館研究の課題という視点からまとめる。

 本稿で扱われている「外国」には,アメリカ合衆国,イギリス,オーストラリアの3国がある。

 この分類に含まれる文献には,表2に示す13があげられる。

表2 外国の学校図書館の歴史,制度,思想及び実態を扱った文献

発行年月 巻号 文献名 著者

1955.10 2巻 アメリカ学校図書館発達史(その1) 岸本 幸次郎
1956. 5 3巻 1号 アメリカ学校図書館発達史(その2) 岸本 幸次郎
1957. 9 4巻 2号 米国学校図書館法の研究 岸本 幸次郎
1973. 9 19巻 1号 米国の学校図書館員免許制度 長倉 美恵子
1974. 7 20巻 1号 英国学校図書館史 古賀 節子
1976.12 22巻 3号 学校図書館メディア専門職養成課程の現状 阪田 蓉子
1980. 3 26巻 1号 学校図書館について考える 平賀 増美
1984.12 30巻 4号 L.C.Fargoの学校図書館思想 柿沼 隆志
1986. 9 32巻 3号 米国学校図書館メディアプログラムと全国ネットワークへの参画 古賀 節子
1993. 6 39巻 2号 学校図書館における新しい利用教育の方法 福永 智子
1996.12 42巻 4号 学校図書館利用教育における批判的思考の育成 平久江 祐司
1997. 6 43巻 2号 1980年代の米国における学校図書館員養成の動向 平久江 祐司
1997.12 43巻 4号 学校図書館利用教育における情報活用能力の育成 平久江 祐司

 以下に,これらの内容を示す。文献の内容は,外国の学校図書館の歴史,制度,思想と実態の四つに別けることができ,以下に四つに分けて紹介していく。



 外国の学校図書館の歴史を扱った文献には,次の3つがある。「アメリカ学校図書館発達史(その1)(その2)」(岸本,1955,1956),「英国学校図書館史」(古賀,1974)である。岸本氏の文献の(その1)では,植民地時代から,19世紀前半のアメリカの教育制度とともに進んできた学校図書館の歴史を記述したものである。(その2)では,19世紀の後半に,アメリカが独自の教育を目指す過程での,学校図書館の歩みについて書かれている。古賀氏の,英国における文献では,1944年の教育法により新しい教育制度が生まれて,始めて学校図書館の設置が行政上規定され,公立学校に根をおろすようになった過程を記述している。

 法律制度や職員制度をあつかったものには,「米国学校図書館法の研究」(岸本,1957),「米国の学校図書館員免許制度」(長倉,1973),「学校図書館メディア専門職養成課程の現状」(阪田,1976),「1980年代の米国における学校図書館員養成の動向」(平久江,1997)の4つがある。岸本氏の「米国学校図書館法の研究」では,アメリカ各州に共通的に見られ,かつわが国の問題と対比されるような主要な項目を取り出して,考察が進められている。職員制度に関するものとしては,長倉氏の「米国の学校図書館員免許制度」があり,10年前と現今の学校図書館関係職員免許制度を比較することによって,その変革を具体的に捉えるように試みられている。阪田氏の文献では,学校図書館メディア専門職の養成課程の現状が明らかにされている。平久江氏の「1980年代の米国における学校図書館員養成の動向」では,学校図書館員の養成にあたって能力主義の果たした役割を日米の文献により考察してある。

 更に学校図書館の思想を扱ったものには,「L.C.Fargoの学校図書館思想」(柿沼,1984),「学校図書館における新しい利用教育の方法」(福永,1993),「学校図書館利用教育における批判的思考の育成」(平久江,1996),「学校図書館利用教育における情報活用能力の育成」(平久江,1997)がある。柿沼氏の文献は,L.C.Fargoの主著『学校の図書館』(当時の学校図書館界と図書館学者の図書館像を集約したもの)が用いられている。その中で,学校図書館は,教育の営利から必然的に生み出される存在であり,どのような図書も教科書となりうる。継続教育のために人民の大学である公共図書館を利用できるように,在学中に図書館資料を効果的かつ知的に,また自由に使えるように学ぶ必要があり,これこそが学校図書館の重要な目的と存在理由であるとしている。福永氏の文献は,米国では,学校図書館を対象とした利用者教育の理論化が,学習センター構想という制度的枠組みの中で集中的に展開されてきたこと,そしてこの理論化の方向性は,米国固有の学校図書館事情に即したものであることが確認されたとし,最後に今後の利用者教育研究の方向性を明らかにしている。平久江氏のものは,学校図書館利用教育における批判的思考や情報活用能力の育成について述べられている。

 残りの2つは実態を扱ったものであり,一つはオーストラリアの学校図書館の実状を示した「学校図書館について考える」(平賀,1980),もう一つはアメリカ合衆国の学校図書館の実状を示した「米国学校図書館メディアプログラムと全国ネットワークへの参画」(古賀,1986)である。オーストラリアの学校図書館の文献では,対象校であるセント・ケビンス高校の図書館主任は次の二つを提唱し,それに基づいて運営を行なっていた。第一に,図書館を「学内で最もアカデミック,かつ親しまれる場所」とすること,第二には,そこで働く図書館員は,「全校生徒,教師から敬愛されるすばらしい人」であること,以上の二つである。その特徴としては,広報活動,頻繁な自館の調査・統計,利用指導がある。

 外国の学校図書館について取り扱われている論文は,全体から見てその割合が高くなっている。その中でも,米国に関するのもがそのほとんどを占めている。その理由としては,昭和28年の学校図書館法成立に至る過程が影響していると考えられる。 すなわち学校図書館法は,終戦後の新教育体制の胎動から,第二次米教育使節団の学校図書館に対する示唆,文部省関係者らの渡米などを経て成立しているという経過があり,学校図書館成立にあたっては,米国との関連は特に深い。したがって,本稿で扱っている文献で米国に関するものは多くを占めている。しかし,学校図書館という概念は,外国においても,公立学校の成立とともに自然発生的に生まれてきたものが多く,強い教育運動などによって思想を確立して生み出されてきたものとは言いがたい。今後,我が国においても学校図書館の必要性をもう一度考え直し,その概念を確立していくことが必要であると考える。

4 日本における実態調査及び実務

 この章では,日本の学校図書館の実態調査と実務を,文献に掲載されている事柄によって紹介する。またその後に,全体を学校図書館研究の課題という視点からまとめる。

 この分類に含まれる文献には,次の15があげられる。

表3 日本における実態調査及び実務に関する文献

発行年月 巻号 文献名 著者

1956.12 3巻 2号 学校図書館とNon Book Material(中部山岳地帯) 清水 正男
1966. 8 13巻 1号 学校教育の面から見た図書館員教育の実情調査と比較研究 深川 恒喜
1969. 8 15巻 2号 沖縄における学校図書館の課題 清水 正男
1970.12 16巻 高等学校図書館の運営・管理組織の型について 長倉 美恵子
1971.10 17巻 学校図書館と整理技術 石田 公道
1971.10 17巻 学校図書館資料の諸問題 清水 正男
1971.10 17巻 学校図書館と他の図書館・機関との協力 三輪 計雄
1971.10 17巻 学校図書館員養成の課題 長倉 美恵子
1971.10 17巻 学校図書館と 読書指導 平賀 増美
1973. 9 19巻 1号 中学校図書館における学校図書館利用指導の実証的研究 北島 武彦他
1979. 3 25巻 1号 学校図書館の業務(1) 長倉 美恵子
1980. 9 26巻 3号 学校図書館の業務(2) 長倉 美恵子
1983. 3 29巻 1号 わが国の教員とアメリカンスクール教員との学校図書館観の比較 上田 修一他
1983. 9 29巻 3号 学校図書館援助サービスシステムとしてのリソースセンター構想 小野田 京美
1996. 9 42巻 3号 小学校図書館における科学の本に対する読書の動機づけとしての科学遊び 塚原 博

 以下に,これらの内容を示す。文献の内容は,日本の学校図書館の実務,職員の業務,利用教育や教科教育と管理・運営の四つに別けることができ,以下に四つに分けて紹介していく。



 まず,学校図書館の実務に関しては,1971年に特集が組まれている。それに含まれるものは,「学校図書館と整理技術」(石田),「学校図書館資料の諸問題」(清水),「学校図書館と他の図書館・機関との協力」(三輪),「学校図書館員養成の課題」(長倉),「学校図書館と 読書指導」(平賀)である。石田氏の整理技術に関しては,学校図書館整備(事務用基本目録)状況は,小学校21%,中学校20%にとどまっていた。その理由としては,事務職員を欠いていることが挙げられる。事務職員は,一貫性と統一性を持たせるために常置の必要がある。しかし現状では,法的根拠と財政的な裏づけがないために常置されていない。整備を充実するには人の配置が,分類・目録を論じるより先決であると述べている。学校図書館資料の諸問題に関しては,一人一人の児童生徒の教育が考慮されるべきとなった新学習指導要領によって,どのように学校図書館の教育がなされるべきかが大きな課題であるとしている。三輪氏の文献では,学校図書館と他の図書館との協力について法規上は,学校図書館法第4条5項に「他の学校図書館,図書館,博物館,公民館等と緊密に連絡し,及び協力すること」となっている。しかし,その協力関係は活発でないとしている。長倉氏は学校図書館員養成の課題として,学校図書館学を正規の大学課程とすること,全教職志望者に学校図書館利用に関する基礎科目を課することなどがあり,まずもって,学校図書館への国家の教育投資を懸命に誘致するべきであると述べている。平賀氏は,読書指導の役割は,「人間疎外」から「人間性」を回復させることである。それゆえに,読書指導を学校教育に適用することが必要であるとしている。

 また,職員の業務に関するものは,「学校教育の面から見た図書館員教育の実情調査と比較研究」(深川,1966),「学校図書館の業務(T・U)」(長倉,1979,1980),「わが国の教員とアメリカンスクール教員との学校図書館観の比較」(上田他,1983)がある。深川氏は,司書教諭の養成がどのように行なわれているか。現行の司書教諭養成講習のあり方,司書教諭養成の制度や内容等を明らかにしようとした。長倉氏の「学校図書館の業務T」では,我が国の学校図書館業務の範囲と領域を確認し,今後の運営モデル(とくにマルチ・メディアセンターとしての)設定の基礎データを得ることを試みたものである。調査票は,米国の調査で用いられたものと類似の形式とすることで,わが国の学校図書館業務の特色を米国との比較によって具体的に把握する端緒を得ることを目的としている。同じく長倉氏の「学校図書館の業務U」では,Tの成果をふまえ,標準的な業務量算定の指標を検討し,それらの指標のリスト化をはかった。その目的は,学校図書館運営にとって不必要な業務を合理的に排除し,不可欠な基本的標準業務を設定し,説得力のある標準的業務量の定量化であった。上田氏らの文献では,わが国の教員とアメリカンスクール教員との学校図書館観について,一般的な学校図書館観を論ずることは出来ないとしながらも,両者に明確な差が見られるのは明らかであるとしている。その中で,アメリカン・スクールの米国人教員のなかには,図書館学科目の履修者が多いことをあげ,我が国の教員に比べると,教科学習に学校図書館の機能を持たせようとする傾向を認めている。また,我が国の教員においては,資料の不充分さや図書館の利用時間の制限から,教科学習よりも資料や図書館の利用法,読書法にその機能を持たせていることが明らかにされた。

 学校においての具体的な利用教育や教科教育について書かれているものは,「中学校図書館における学校図書館利用指導の実証的研究」(北島他,1973)と「小学校図書館における科学の本に対する読書の動機づけとしての科学遊び」(塚原,1996)がある。北島氏らの中学校図書館における実証的研究では,都内中学校における利用指導の実施率は,39.8%であり,利用指導計画をもつ学校は,わずか12.1%としている。その理由としては,教師の利用指導に対する理解が十分でないこと,小学校と異なり中学校には利用指導に関する改定学習指導要領の明確な位置付けがないこと,司書教諭の不在,教材の欠如があげられるとした。塚原氏の論文では,小学校において科学あそびを通し,学校図書館の利用について述べられている。

 学校図書館の管理・運営に関する問題については,「高等学校図書館の運営・管理組織の型について」(長倉,1971),「学校図書館援助サービスシステムとしてのリソースセンター構想」(小野田,1983)がある。長倉氏は,学校の規模と図書館運営管理組織には緊密な関係が予測せられるとした。小野田氏は,我が国の学校図書館が担当者の個人的努力のみによって問題解決がはかられている現状をかんがみ,米国の,州−地域−学校区−学校の4つの各レベルにおいて組織的に組まれているメディア・プログラムをもとに,川崎市を例にとって実態調査を行ない,学校図書館援助サービス機関の必要性を明らかにした。

 さらに,地域の実態を調査したものに,清水氏による「学校図書館とNon Book Material」(1956)と「沖縄における学校図書館の課題」(1969)がある。前者において,長野県の実例をもとに,近代的学校教育に於いて経験の具体化・抽象化を図る優れた資料としてのNon Book MaterialをMaterial centerとしての学校図書館に持たせる事により,学校教育全般の有力な一分節としての学校図書館の機能を一層明確にし発展させることが肝要であると述べている。後者においては,沖縄学校教育における図書館的機能の実情を知り,同機能の発展過程で現在把握する教育的課題を明らかにし,沖縄教育全般の充実への基盤を培うことが必要であると述べている。

 全体を通して,日本の実態調査及び実務を研究しているものはそれぞれ詳しく調査がなされている。しかし,継続して調査がなされていないことや,広範囲にわたって調査されていないことが今後の課題である。また,研究の成果が各校の学校図書館の現場に活かされていくことも必要である。

5 年代による学校図書館研究の傾向とその背景

 1950年代から,1970年代については,長倉氏が次のように述べている。

1950年代は,職員養成を含めて学校図書館界が情熱的に理想を追求し,それを組織化,法制化しようとした時代であった。1960年代は,非現実的ともいえる理想案の法制化の下で,その矛盾にあえぎ,如何に妥協すべきか,あるいは如何に応急的処置をなすべきかを懸命に模索し,ついに力尽きていろいろな破綻を見せ始めた時代であった。1970年代の課題は,それまでの破綻の一つ一つを丹念に検討し,理想案をもう一度見なおし,体制の再検討を計ることである。

 そして,1980年代,1990年代は以下の表に示す13の文献が執筆されている。

 表4 1980,1990年代の文献

発行年 文献名 著者

1980 学校図書館の業務(2) 長倉 美恵子
1983 わが国の教員とアメリカンスクール教員との学校図書館観の比較 上田 修一他
1983 学校図書館援助サービスシステムとしてのリソースセンター構想 小野田 京美
1984 L.C.Fargoの学校図書館思想 柿沼 隆志
1986 米国学校図書館メディアプログラムと全国ネットワークへの参画 古賀 節子
1987 学校図書館の社会的意味 柿沼 隆志
1993 学校図書館における新しい利用教育の方法 福永 智子
1996 自己教育力を育成するための学校図書館利用指導 平久江 祐司
1996 小学校図書館における科学の本に対する読書の動機づけとしての科学遊び 塚原 博
1996 学校図書館利用教育における批判的思考の育成 平久江 祐司
1997 1980年代の米国における学校図書館員養成の動向 平久江 祐司
1997 学校図書館利用教育における情報活用能力の育成 平久江 祐司

 表4から明らかなことは,1990年代に入って利用教育がさかんに取り上げられるようになってきたことである。1996年7月に,中央教育審議会は,「21世紀を展望した我が国の教育のあり方について」を公表した。同答申(第一次)には,学校の施設の中で特に学校図書館は,学校教育に欠くことの出来ない役割を果たしているとの認識に立っている。その中で,図書資料の充実のほか,さまざまなソフトウェアや情報機器の整備を進め,高度情報化社会における学習情報センターとしての機能の充実を図っていく必要のあることを述べている。こうした文部省の動きを踏まえた上で,教育課程の中での学校図書館利用教育が重要視され,利用教育についてを扱った論文が存在してきているといえる。

6 まとめ : 今後の課題として

 本稿で対象とした36の文献により,日本の学校図書館研究の動向が,完全ではないとしても,縮図として把握できた。注目すべき点は,単発的な文献がほとんどで,活発に論議が重ねられて研究が進められて成長してきているとはいえないことである。これこそが,日本での学校図書館研究の課題であり,活発な議論を経て学校図書館という学問分野が深まっていく必要を感じる。それは特に,日本の学校図書館の概念の確立という点で必要であると考える。また,題名に「学校図書館」を含まず,本稿では対象としなかった学校図書館に関する文献を概観しても本稿で得られた知見を覆すものはない。先にふれた,学校図書館の意義や機能が十分に発揮されていくためにも,学校図書館に関する研究が今後さらに深まりをみせていく必要を感じる。しかし,1つ1つの文献は丁寧に分析されており,文献執筆者の研究への熱意を感じる。そのような先人たちの研究の蓄積を生かしていくためにも,学校図書館の研究が多数の研究者によって進められ,多くの論議のもとに深まっていく必要を感じる。

 今後,教育学的な観点から学校図書館の存在の必要性を再定義し,それに基づき,学校図書館を利用した教育課程を具体化していきたい。

引用文献

長倉美恵子(1971).「学校図書館職員養成の課題」. 『図書館学会年報』 Vol.17, p. 42

参考文献

北嶋武彦編著(1998). 『図書館概論』. 東京: 東京書籍

長澤雅男,戸田愼一編(1997). 『図書館学研究入門 意義と方法 補訂版』. 東京: 日本図書館協会

渡辺信一,古賀節子編著(1998). 『メディアセンター論』. 東京: 財団法人放送大学教育振興会




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