1.序章 − 環境教育とインターネット −
1.1 研究の動機
学校教育にコンピューターが利用され、学校がネットワークでつながれる時代になった。インターネットは、閉鎖されていると言われていた学校を開放し、世界・社会と交流する道具として日々成長し、機能し始めている。
インターネットを学校教育で利用することにより、視野が広まり様々な問題に目を向けることが可能になる。そこで、地球的な規模での問題を解決するための態度、方法を身に付ける教育である「環境教育」がインターネットのホームページ上ですでにいくつか存在していることに注目した。
1.2 環境教育とは何か
今日の地球は、オゾン層の破壊、地球温暖化、酸性雨、熱帯林の現象、砂漠化などいくつかの環境問題に直面している。日本国内でも、大気汚染、水質汚濁、廃棄物などの環境問題が存在する。環境問題の解決は長期的な課題であり、学校教育でも、児童・生徒たちに環境についての正しい理解と行動力を身に付けさせることが重要だと言われている。そこで近年重要視されているのが環境教育である。環境教育とはどういう教育なのであろうか。
環境教育とは、簡単に言うと、こうした環境問題に教育現場で対応していこうとする教育活動である。ここでの教育現場とは学校だけに限らない。社会教育、生涯学習も含めた「長期的な教育活動」であると言えるだろう。
<図表1-1>環境教育に対する考え方
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環境教育の目的に対する一般的な見解は、1972年の国連人間環境会議で採用された定義である。また日本国内での環境教育の考え方を示したものに、『環境教育指導資料』(文部省, 1991)がある。(図表1-1参照)
これらの目的にそって、現在日本各地でも様々な環境教育が実施されているのである。
1.3 インターネットと教育
教育の現場にコンピューターが導入され、その利用方法も多様化されている。平成7年からの、通産省が文部省の協力で全国の小・中・高等学校などおよそ100校をネットワークに接続する環境を提供した「100校プロジェクト」は有名である。対象となった学校は世界各地とインターネットでつながれ、全国各地の学校とEメールを利用して情報を交換したりすることが可能となった。 100校プロジェクト以外でも、学校をインターネットでつなごうとする動きは複数見られるようになった。
現在、インターネットに接続されている学校はまだ少ないが、接続校の数は確実に増え、ネットワークも確実に広まっている。遠隔地の学校の子どもたちが様々な問題について話し合う共同学習などは、インターネットの特性を充分に発揮できる学習分野であろう。多田元樹は通信系マルチメディアの学校進出について以下のように述べている。「情報の共同発信型の学習は、通信系マルチメディアの利用によってこそ可能になるものであり、情報の受信が中心であった子供たちに、今までにない新鮮な学習経験をもたらすことは間違いない。新しいコミュニケーションの手段は、学校や地域、そして国を越えた人間同士の結び付きを強める働きをもっている。(中略)インターネットを利用し、地球規模で共同学習を行う子供たちの姿は、マルチメディア時代の学校における象徴である。」(多田,1995, p. 64)
学校でのコンピューター利用は、受信型から発信型へと発展しており、その特性を生かしつつ様々な活動が行われているのである。
1.4 環境教育におけるインターネット利用
環境教育の教材について、『環境教育指導資料』では以下のように述べている。「環境に関わる学習では、観察や調査の対象に拡がりがあるので、地域の実態や生徒の興味・関心に応じた多用な個別的教材を開発する必要がある。また、教材開発にあたっては、生徒が自ら問題を見いだす主体的な問題解決能力を育てるよう工夫することが大切である。」(1991, p. 15)
その上で野外学習の教材開発の意義を大きく述べているのだが、その他に映像教材の効用を三つあげて説明している。(図表1-2参照)
<図表1-2>環境教育における映像教材の効用
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また、同資料では、環境教育で育成すべき能力をいくつかあげている。その中の一つに「情報処理能力」があり、環境に関する情報収集能力や、未来の環境を予測的にシュミレートする能力が重要だと言っている。さらに「コミュニケーション能力」をあげ、環境や環境問題について自分の意見をもち、それらを口頭、文章、映像など様々なメディアを活用して表現する能力が必要だとも言っている。(文部省,1991,p.18)
環境教育は、実体験から環境認識を深めていく教育である。しかし、以上のように、環境教育における映像教材の効用、育成すべき能力などを考慮したとき、世界中の情報を受信し、さらに自分たちの情報を発信することのできるインターネットは効果的だと言えないだろうか。インターネットによって、世界各地の環境問題の今を知ることが可能になる。また、身近な環境問題について報告し、数多くの人に働き掛けることも可能になるのである。
実際に、環境教育をホームページ上で扱っている学校はいくつか存在している。これらの学校は、何か環境教育のインターネット利用の効果を期待して活動を行っているはずである。インターネットを利用した環境教育について、日本の小中学校を対象に実態を調査し、現状とその効果について検証しようと考えた。そしてその結果をもとに、環境教育におけるインターネット利用のこれからについて考察した。
先行研究について調査したところ、環境教育プログラムの開発と環境教育ネットワークの提案をしたものとして、永谷真一らの「湖沼環境保全のための参加型環境教育プログラムの開発」(永谷他,1995,)があった。ここでは、湖沼・水環境についての環境教育を中心とした情報データベース、通信ネットワークの利用を提案しているが、環境教育でのインターネット利用の実態や、その効果については述べていなかった。また、対象となっているのは市民であり、学校教育の範囲ではなかった。
1.5 データの収集
調査をするために、学校あるいは学校内の組織のホームページで、環境教育を扱っているものを探すことしにた。サーチエンジンのYAHOO,NETPLAZAを使い、「環境教育」というキーワードから探せる日本の小中学校のホームページを引き出した。また、環境教育についての内容を多く掲載している、鳴門教育大学の「環境のページ」にリンクされていた小中学校のデータを引き出した。取り出してきたホームページの内容を見て、教員個人のホームページを除き、「環境保護」「環境保全」の意図が感じられるものに絞り、最終的に7つの小学校と6つの中学校、計13校のホームページを調査の対象とすることにした。本研究は、個別の学校について追求することを目的としないため、小学校にA〜G,中学校にH〜Mのアルファベットを付けて集計にあたった。ホームページのデータは1997年10月24日を最終とした。
以下の章ではそれらホームページ上で扱われている問題の調査、活動単位の調査、内容の評価、共同プロジェクトとの関連の調査を行い、実態とその効果、今後の課題について考えた。
2. 取り扱っている問題
本章では、各学校がホームページ上で取り扱っている問題に注目し、どのような問題が多く取り上げられているかを調べた。そして、環境教育としてどのような問題が取り上げやすいのかについて明らかにしようとした。
2.1 問題のスケール化
前章で述べたように、環境教育の領域となる問題は定義が難しく、一般化しにくい。そこで、取り出した13校のホームページの内容を見て、扱っている数が少ない問題は除外し、複数校が扱っている問題に絞って調査を行うことにした。問題は以下の6つに分けた。
各ホームページを見て、6つの問題と照らし合わせ、取り扱っていれば1として集計した。相互の関連しているものは中心となるものだけ集計した。
例:森林の保護は空気や酸性雨も影響しているが、森林問題として扱う。川や海の汚染は廃棄物なども関係しているが、水の問題とする。等
さらにそれを小中学校別にわけて集計し、それぞれの結果について考察した。
2.2 全体の結果
学校ごとに集計した結果を図表2−1に、その中から合計だけに注目したものを図表2−2に示した。
図表2−1を見ると、どの学校がどの問題を扱っているか、学校ごとにいくつの問題を扱っているかを知ることができる。2個あるいは3個の問題を同時に扱っている学校が多いことがわかる。
問題の合計を示した図表2−2に注目すると、13校のうち水の問題を扱っている学校は9校で最も多く、割合にすると全体の7割近くが水の問題を扱っていることがわかった。次いで酸性雨の問題7校、動植物問題6校、空気の問題5校、森林の問題、廃棄物の問題4校であった。
ホームページ上に掲載されている問題は、インターネット利用の有無に関わらず、各学校の環境教育で実施している問題をほぼ反映していると考えられる。つまり現状では水の問題を環境教育に取り入れている学校が多いと言える。水の問題は川・海・水道のように様々な視点から取り組め、比較的身近であるため、小学校、中学校を問わず扱いやすい問題のようだ。森林問題が少なかったのはその逆で、学校の立地が影響し問題を扱いにくくしていると考えられる。
では酸性雨の問題は身近で扱いやすい問題と言えるだろうか。これはインターネット上の集計であったため多かったものであると言えそうだ。以下の章で述べる100校プロジェクトの中の一つである酸性雨プロジェクトによって、活動体制が整備されている学校が多かったのである。
全体の集計をすることで、学年やカリキュラムの差はあるが、扱いやすい問題とそうでない問題の差があることがわかった。どの問題を扱うかについては、問題の取り組み安さ、学校の場所的条件が影響しており、またインターネット上の活動では、プロジェクトなどのバックアップも問題を扱いやすくする要因であると考えられる。
<図表2-1>環境教育で取り扱っている問題(学校別)
<図表2-2>環境教育で取り扱っている問題 ―全体で―
<図表2-3>環境教育で取り扱っている問題 ―小中学校別―
2.3 小中学校別の結果
図表2−1のA〜Gは小学校、H〜Mは中学校である。小学校では2、3種類の問題を掲載している学校が主だが、中学校では5、6種類の問題について言及している学校があった。合計に注目し、小中学校別に集計を行うと結果は図表2−3のようになった。
この結果もやはり、インターネットの有無に関わらず環境教育全体を反映しているものと考えていいだろう。小学校では動植物問題を扱っている学校が最も多く、次いで水の問題が多くなり、空気の問題、酸性雨の問題、森林の問題、廃棄物の問題を扱っている学校は少なかった。中学校では水の問題が多く、続いて酸性雨の問題、空気の問題の順になった。
小中学校の差が大きく出たのは動植物問題と酸性雨問題であった。小学校に動植物問題が多くなった理由として、小学校では「自然観察」を中心としていることが上げられる。反対に中学校では「調査研究」が中心となっているため、実際の計測データを出せる酸性雨問題や水の問題が多くなったと考えられる。
『環境教育指導資料』は、児童・生徒の発達段階の配慮について以下のように示している。 「学校における環境教育は、小学校、中学校、高等学校の各段階を通して行われるので、児童・生徒の発達段階に対応した教科の選択、指導方法の工夫が大切である。環境教育の基礎づくりの段階にある小学校低学年・中学年の児童には自然に触れ、自然の事物・現象から感受する活動の機会を多くもたせたい。(中略)小学校高学年の児童、中学校の生徒には、環境に関わる事象に直面させ、具体的に認識させるとともに、因果関係や相互関係の把握力、問題解決能力が育成できるように指導するのが望ましい。」(文部省,1991,P.13)
インターネット上の環境教育についても、児童・生徒の発達段階に合わせながら活動が行われているといえるだろう。
2.4 まとめ
13校全体では、水の問題を取り上げている学校が多く、森林問題や廃棄物問題などは少なかった。取り扱う問題については、問題の取り組み易さ、学校の場所的な条件、児童・生徒の能力に合わせたカリキュラム設定が関係しているものと思われる。
環境教育は広範囲であるため、学校によっては人口問題や高齢者問題などもすでにホームページ上に環境教育として掲載していた。今回は6つの問題にしか分類できなかったが、それらを考慮すると、環境教育としてホームページ上に掲載されている問題は、学校ごとにかなり分散されているものと思われる。多く取り上げられている問題と、そうでない問題に差が出たのは、各学校が現時点で扱いやすい問題を重視した結果ではないだろうか。
インターネット上で環境教育活動を展開する場合、各学校で実際に行っている活動を掲載することが現段階では主流となっている。プロジェクトのようなバックアップがあれば、掲載方法にも統一性が見られ、問題としても取り上げやすくなっている。
各学校が取り扱っている問題と、その取り上げ方をみると、まだ試行錯誤の状態で、確立したものになるには少し時間がかかるように感じられる。またインターネットやオンラインの利用についてはこれといったマニュアルがないのが現状だ。各学校が地域性や学校の個性を生かしながら様々な問題について取り組めるようにするためには、マニュアルやプロジェクトの整備などが重要だと考える。
3. 活動の単位について
本章では、環境教育をホームページ上で実践している単位に注目し、どのような単位で活動しているのか、それぞれの単位の活動にどんな特徴があるか、について明らかにしようとした。
3.1 活動単位のスケール化
各小中学校は環境教育を授業で行ったり、課外活動の一部として行ったりしている。ここでは13校のホームページについて、環境教育の単位を調べた。集計は以下の7つの単位に分けて行った。
13校のホームページを見て、各単位に当てはまるか調べた。調べた結果から特徴的なものを取り上げて考察し、さらに単位ごとの内容をみていった。
3.2 集計の結果
集計の結果は図表3−1のようになった。図表を横に見ると、単位の集中がどこにあるかがわかり、縦に見ると学校ごとの活動単位の分散がわかる。
図表を横に見た場合、学校単位が5校で最も多くなった。次いで学年単位の活動が4校、部・クラブ活動が3校であった。選択授業と生徒個人の活動は2校で、学級の活動は1校と少なかった。それらに属さない単位が4校にあった。
図表を縦に見て、学校ごとにいくつの単位で環境教育を実施、掲載しているかを調べた。小学校は学校と学年単位がほとんどで、一つの学校につき1、または2単位で活動していることがわかる。中学校になると、学校や学年単位での活動が少なくなり、選択授業や部・クラブ活動などが増えていることがわかる。選択授業は中学校にしか見られない活動であり、中にはJ、L、Mの中学校のように環境教育を3つ以上の単位で実践している学校があることがわかった。
<図表3-1>ホームページ上の活動の単位
3.3 各単位の内容
集計結果をふまえ、各単位の活動がどのように行われているかを調べた。 学校単位の活動では教科を越えた総合学習、あるいはその範囲での課外活動という形で環境教育を実践、掲載している学校が多かった。また小学校では学年単位の活動も総合学習の形をとっていたが、中学校では理科の2分野と技術の授業で実践したことを掲載している学校がそれぞれ1校あった。また、実際の活動は掲載されていなかったが、家庭科と社会科の授業で環境教育の実践を予定している学校が1校あった。
部・クラブについては、自然観察クラブが1校、科学部が2校あった。
選択授業という形をとっていたのは中学校のみで、科目は選択理科、選択技術の2教科であった。また、選択授業ではあるものの教科のない「生き方学習」という学校独自の科目を設けて活動を掲載している中学校があった。生徒個人の活動の場合、夏休みなどを利用した課題研究、自由研究が掲載されていた。その他は委員会や生徒のグループの活動で、環境委員、国際交流委員会などが活動にあたっていた。1校あった学級の活動は、学校で実践している総合学習の一貫として、特定の学級の記録が掲載されているものと思われる。
単位ごとにどういう活動をするかという点においては、小学校の方がやや不明瞭であった。中学校ではしっかりとした単位の分散により、その単位で何をしているかがはっきり打ち出せている学校が見られた。
3.4 単位ごとの活動の利点
単位ごとの活動はどのような面で効果的なのであろうか。単位ごとの活動の利点について、2章の図表2−1と合わせて考えてみた。
図表3−1の結果と図表2−1の右端の合計に注目した。活動単位が少ないB、C、D、E、F校などは扱っている問題が2、あるいは3程度であり、多くの問題を扱っていないことがわかる。小中学校を問わず、全学年で同じことをしようとしている学校は掲載量も少なくなっていた。
活動単位が細分化されている学校、特にJ校とM校の図表2−1の結果に注目してほしい。取り扱っている問題が5個、6個というように、他の学校より多くの内容を追求できていることがわかる。これらの学校の実践は単位毎の活動がうまく機能しているよい例だろう。技術の授業で木材を通して森林に目を向け、科学部は酸性雨のデータを採取する、委員会で国際的な環境問題の解決を討論し、選択授業でリサイクルを考える、というようにそれぞれの単位がそれぞれに合った活動を展開できているのである。
いろいろな問題について考えたり、一つの問題を様々な視点で捉えたりできることが、単位での活動の最大の利点なのである。
3.5 まとめ
活動の単位は学校や学年が主で、分散されていないのが現状であることがわかった。『環境教育指導資料』では「環境教育はすべての教科等と何らかのかかわりをもたせ」とあるが(文部省,1991,P.11)、インターネット上ではすべての教科、とまでは進んでいないことがわかる。しかし、学校によっては複数の単位で環境教育を取り上げ、ホームページ上で充分な報告ができている学校も見られ、期待感を持てる結果となった。
環境教育は様々な視点からのアプローチが可能である。多くの児童・生徒が取り組み、環境への認識を深めるためには活動の単位が複数あったほうが望ましいのではないだろうか。ただ、多く手を広げすぎて内容が薄くなることは避けたい。各学校の特色、学年等のレベルを考慮し、しっかりとした活動単位の枠組みを作ることが重要であろう。
4.ホームページの内容の評価
本章では、13校のホームページの内容をいくつかの基準で点数化し、内容の成熟度をはかろうとした。また、点数の高い学校や、その他独自の試みをしている学校の活動について紹介した。
4.1 内容評価のスケール化
集計した13校のホームページには、掲載内容や掲載方法にそれぞれ違いが見られる。それらを比較するためにホームページの内容を点数化し、評価した。評価は以下の4点に注目し、10項目の基準で行った。
それぞれのホームページをこの基準と照らし合わせ、よくできていると思われるものに3点、大体できていると思われるものに2点、できているもののやや弱いと感じられるものに1点を付けた。30点満点で合計を出し、全体、小中学校別で平均点を算出した。出された結果から現状を分析し、それぞれの学校の取り組みについて分析した。
4.2 全体の評価
結果は図表4−1のようになった。結果を順に見ていった。
文面に注目すると、どの学校も活動の報告はできていることがわかった。また、調査、計測を
行っているという文はあるものの、その結果について紹介していない学校が小学校に2校、中学校に1校あった。これらの学校は、「インターネットを利用して環境教育を行っている」と言うより、「環境教育を行ったという事実をインターネット上で報告していた」と言ったほうが正しいのかも知れない。児童・生徒がHTMLを書いているか不明の学校が多かったが、部分的ではあるが実際に書いているホームページもあった。
視覚的効果については、どの学校にも工夫が見られた。見学したときの様子や、川の清掃をしている写真などが主で、その他に観測地点の地図や絵本形式のイラストを貼り込んだりしていた。
<図表3-1>ホームページの内容の評価
グラフや図表は学校による差異が大きかった。これは取り扱っている内容にも関係があると思われるが、調査しているもののそれを図式化できていない学校もあった。
インターネット上での他者との交流については、まだよくできていないということがわかる。共同プロジェクトなどを通じてのリンクがある学校は多かったのだが、ホームページを閲覧する第三者を意識し、アンケートやメール送信画面を設けている学校は13校中2校しかなかった。
児童・生徒の問題の受けとめ方は、学校間の格差が大きく、全体としては低いことがわかった。警告や解決策の提示ができておらず、インターネットを通じて第三者へ訴えかけられるものになっていないのが現状であることがわかった。
平均点は全体では15.0であった。
4.3 小中学校別にみた評価
小中学校別に見ると、結果にはやはりかなりの差が出た。小学校は環境教育の基礎をつくっていく段階ではあるが、活動の報告が中心で、問題を問題として捉えることができていない学校もあった。また、他者に働きかけようとする動きがあまりないことがわかる。しかし、写真やイラストの工夫で3ポイントを獲得したり、高学年では自分なりの意見を述べている学校も見られた。小学校の平均は11.4点であった。
中学校では文面や写真についてはほとんどの学校が3ポイントを獲得し、図表についてもよくできている学校が多かった。計測データをグラフにして示したり、本などを利用して調べたことをふまえて原因を考察するなど、小学校に比べて内容が豊富、かつ高次元になっている。教員に頼るばかりでなく、グループ学習でHTML文を書いたり、生徒の自主的な行動がうかがえる。しかし中学校でも、活動の報告、計画書の提示のみの学校があり、ポイントの高い学校と低い学校の差が大きかった。生徒の問題意識も中学校全体としてはまだ低いものであるといえる。中学校の平均は19.4点であった。
ホームページ訪問者が、アンケートや内容評価のメールを送信できる画面を設置している学校が中学校に2校あったが、やはり少ないと言えるだろう。
4.4 学校独自の取り組み、個性を出したホームページ
中学校、小学校にそれぞれ1校、合計点が平均を10ポイント近く上回る学校があった。また、合計点数ではあまり及ばなかったものの、学校の個性を出しながら先進的な活動をしているホームページがいくつかあることがわかった。特徴的なものをいくつか紹介したい。
F小学校の6年生は町にあるブナ林についてグループごとに調査活動をし、「ふるさとのブナ林が私たちに教えてくれるもの」と題して発信している。これは地域について調べることから環境への認識を深め、それを他者に理解してもらおうとしているよい例である。
C小学校ではリサイクル問題に力をいれており、生ゴミを減らすために児童がコンポストを始めた記録や、牛乳パックの再利用の仕方を検討したことが掲載されている。児童がHTMLを書いているため、児童なりの努力とその成果を感じられる。M中学校の技術では、木の製品を通して、木材、森林に目を向けていた。
調査したホームページのなかではJ中学校が最もポイントが高かった。この学校では4章で述べたように、選択理科、選択技術、科学部、委員会で環境教育活動をしており、それぞれの単位で独立した活動内容を紹介している。選択理科での取り組みが新聞(教育家庭新聞、1998.1.1,17面)に紹介されていた。大気汚染について考えたグループは、他の市町村の学校とEメールで意見交換をし、水質汚染のテーマのグループは、石鹸との関係を調べるために、洗剤メーカーのホームページにアクセスしたりと、自分たちの情報収拾のためにもインターネットをフルに活用しているというのである。「インターネットを使うということは、自分たちの情報を外の世界に発信し、情報を集める、その範囲と可能性が無限に広がること」と同校の指導教諭は言っている。また、選択技術で行った「水のProblem」は実際に小学校の教材として使われたと報告されている。活動単位が多いため、身近な問題から国際的な問題までを扱うことができ、生徒の見聞を広めているようだ。また、ホームページ閲覧者に環境に対するアンケートの協力を求めている。この中学校はインターネットを効果的に環境教育に利用している典型的な例である。
このように、まだ発展段階ではあるもののインターネットの特性を生かしながらの環境教育は確実に浸透しているのである。
4.5 まとめ
ホームページの内容は全体としては活動の報告が多く、点数面では学校間の差が大きいことがわかった。ホームページを作成する場合、学校側の体制が整っていることと、技術、意欲の面で優れた教員がいることが前提であるため、その時点で差が出るものと思われる。水越敏行はマルチメディアを授業で使う場合の教員について以下のように述べている。「いずれにしても、最後の決め手は教師に帰着する。新しい動きに心を開き、絶えず自己変革に努めながら、自分の個性を教室のなかに、授業の過程に発揮していける教師を一つの学校に何人もてるかであろう。」(水越,1994,P.57)
コンピューターを受け入れる体制を整え、教員を育成していくことが、各学校がよい内容をインターネット上で提供していくために重要なのではないだろうか。
成長段階ではあるものの、良いほうに向かっていると言える点も数多くあった。ポイントの高いホームページ以外でも、各学校はそれぞれの個性を発揮しながら、様々な方法で環境教育に挑みインターネット利用者に呼び掛けている。ホームページに活動を紹介するだけでなく、インターネット上に無数にある様々な情報を材料として自分たちのホームページをつくったり、実際に教材として使われるほどのレベルになったものもある。集計後に環境教育についてのホームページを公開した学校もあり、今後さらによいホームページが増えることも考えられる。また、児童・生徒が自分たちで問題について考え、解決方法を提案し、自分の意見が反映されることで、自主性が伸びているという報告もある。これからは、インターネットの特性をさらに生かして生徒たちが見聞を広めながら、国際的な問題にまで取り組む学校が出てくることを期待したい。
5.共同プロジェクトとの関連
本章では、調査した13校と共同プロジェクトとの関連を調べ、共同プロジェクトの現状や、新しい動きについて紹介する。
5.1 共同プロジェクトとは何か
全国で、インターネットに接続されている学校が増えている。その背景には全国の学校にインターネットに接続する環境を提供するプロジェクトが、いくつか関連している。また、インターネットに接続している学校同士で何かを共同して行っているプロジェクトもある。プロジェクトには、世界中の学校、日本各地の学校が関連している大規模のものや、県、市町村レベルの小規模なものまである。それらの中には、環境教育に関連したものもあり、調査対象となった13校の中にも、プロジェクトに参加することで、環境教育を行っている学校があった。本章ではそうしたプロジェクトを「共同プロジェクト」と総称し、現状と新しい動きを明らかにする。
5.2 調査した学校と共同プロジェクトとの関連
13校についてプロジェクトとの関連を調べた。たいていの学校は「○○小学校は☆☆プロジェクト参加校です。」とホームページ上で明記していたり、プロジェクトのホームページへのリンクがあったりした。それらを調べた結果、12校が大小含めて何らかのプロジェクトに確実に参加していることがわかった。学校によっては複数のプロジェクトに参加していた。12校が参加している主な共同プロジェクトは、以下のようなものである。説明文は、基本的にそれらプロジェクトのホームページを参照して作成した。
これらのプロジェクト以外にも、インターネット上の共同プロジェクトは多い。一つのプロジェクトが終了すると、それを生かしてさらなる新しいプロジェクトが生まれているのである。
5.3 共同プロジェクトの利点
調査した学校のほとんどが、何らかのプロジェクトと関わっていた。各学校が共同プロジェクトを通じて環境教育を行うことにより、どのような利点があるのだろうか。インターネット接続の環境を与えられること以外の、共同プロジェクトそのものの利点について考えた。
まず、調査方法の統一がある。環境教育の場合、対象となる問題が多すぎて何をどのように扱っていいかわかりにくい。その点、共同プロジェクトなどのサポートのもとに活動した場合は、各学校が何をどういう方法で調査し、どういう書式を使って報告したらよいかなどが統一されているため、活動に取り組みやすくなるのである。また、一つの学校だけで活動するときには得られない、連帯感のようなものが生まれ、深い次元でのネットワークによる交流が得られているのである。Geo Touchプロジェクトのホームページの中のディスカッションで、日本の学校の子供たちと、アメリカやオーストラリアの子供たちが野性動物の保護や核廃棄物の問題などについて真剣に議論した報告などは、まさに圧巻であった。
また、ホームページ訪問者も、一つの学校単位よりも数種類のリンクのある共同プロジェクトのほうが多くなり、たくさんの人々に興味を持ってもらえるという利点もある。
さらに、共同プロジェクトについて調べているうちに、あることに気が付いた。子供たちのためのプロジェクトを通して、教員、企業、大学生などを含む「大人たちのネットワーク」が広がっているということである。筆者自身、平成8年の12月から、GAEAプロジェクトのメーリングリストに参加している。参加者は教員が多く、その他研究者、大学生、化学薬品会社社員、新聞社社員など様々であった。メーリングリストでは、研究報告会の告知、環境教育に関連した新聞記事やテレビ番組などの情報提供、ホームページ作成のための相談、プロジェクトで今後どういうことをすべきかなどの議論などが交わされていた。
小中学校の場合、ホームページ作成などにはどうしても教員の負担が大きくなる。教員一人だけで活動を行うには限界があるが、大人たちがネットワークを通じて話し合いをすることで、子供たちにさらによい教育の場を提供できるようになっているのである。共同プロジェクトの利点はそこにもあるのだろう。
5.4 まとめ
インターネットを利用した共同プロジェクトは多数存在し、調査した学校は、ほとんどが何らかの共同プロジェクトと関連していた。共同プロジェクトによって、いくつかの問題を標準化したり、専門家の手を加えることでデータを資料として提供することなども可能になっている。環境教育のような地球規模の問題をホームページ上で扱おうとするとき、共同プロジェクトの支援などがあるとよいと言えるのではないだろうか。また、共同プロジェクトを通じて、子供たちの世界観の広がり、教員や支援する大人のネットワークの広がりが見られ、関係者の結び付きを強くすることにおいても、効果的であることがうかがえる。中には一つの学校で複数の共同プロジェクトに参加している学校もあり、学校と世界、地域とのつながりはさらに大きいものになっているのではないだろうか。
これまでの共同プロジェクトは、学校をインターネットに接続することから始めなくてはならなかったため、企画そのものがやや中途半端で不完全なまま終わってしまった部分もあるように感じられる。100校プロジェクト開始から約4年が経過した今、インターネットに接続された学校は増え、実験的に行われてきた企画は、いくつかの成果と課題を残し、新たな企画へと受け継がれ始めた。
共同プロジェクトの充実は、インターネットを環境教育に利用する場合、非常に重要なことなのではないだろうか。環境教育に限らず、よい企画をつくり出し、子供たちに興味を持って挑んでもらうためには、それを支援する側の正しい認識や態度が必要になる。共同プロジェクトに協賛し合う大人たちが相互に理解を深め、意見を出し合うような協力体制は、今後とても大切なことなのだと考える。
6.終章 −インターネットを利用した環境教育の課題・これから −
本章では、5章までの結果をふまえ、インターネットを利用した環境教育の現状について分析し、その効果と課題、これからの展望について述べる。
6.1 各章の結果
各章では、インターネットホームページ上の小中学校の環境教育について、様々な視点から調査を行った。その結果以下のようなことがわかった。
これらの結果をまとめると、いくつかの改善すべき点、課題があげられる。まず、取り上げている問題や内容、活動の単位の偏りである。環境教育をインターネットを利用しながらどう行っていくか、についての各学校での認識が様々で、活動が定着していないという現状がうかがえる。また、学校間の差があることがわかった。
その一方で、インターネットを新たな環境教育の教材として活用し、児童や生徒が環境教育の目的を果たそうとしている動きがあることがわかった。また、インターネットを学校教育で利用する場合、プロジェクトなどのサポートが大きく関わっていることがわかった。
6.2 インターネット特有の問題点
データの収集や集計をする中で、インターネットならではの問題がいくつか生じた。ホームページ作成は教員に頼る部分が大きいが、年度が変わり、教員が移動することによって、続いていたホームページ作成が途絶えてしまったものがあった。また、更新する頻度の高い学校と低い学校があり、二週間に一度ほどの割合でデータを変えている学校に対し、二年ほど前のものをそのまま掲載している学校もあった。集計するにあたっては、これらの差をうまく考慮できなかった。また、集計を終了した以降、インターネットのホームページで環境教育を大きく取り扱い始めた学校もあった。教員の問題、ホームページ更新の問題は今後のインターネットを利用した教育において問題になるのではないだろうか。
6.3 インターネットを利用した環境教育のこれから
学校教育の中で、環境教育もインターネット利用も、完全に定着しているとはいえない。しかし調査をすることによって、環境教育への取り組み、インターネット利用への手応えを感じることができたように思われる。
環境教育は、環境と人間のつながりを考えさせてくれる。小学校で校庭の植物を観察し、身近な川を調べ、中学校で森林や酸性雨についてデータをもとに検証する。赤堀侃司は以下のように述べている。「インターネットは、学校と現実社会を結ぶ窓である。学校が学校という空間に閉じこめられたとき、そこで習得した知識は現実世界でうまく働かないことが指摘されてきた。現実世界と行き来しながら、知識を構造化することが、問題解決能力へとつながっていく。(中略)この意味で、インターネット等の通信メディアがこれからますます重要になってくる。」(赤堀,1997,P.66)
実際に、児童・生徒がインターネットという媒体を活用して情報を集め、交流を深める中で、学校という社会の中だけでは生まれない、現実的な世界観が生まれているように思われる。環境教育にインターネットを利用することは、環境教育、インターネットの教育利用双方の目的にのっとった、有効的な実践と言えるのではないだろうか。
そこで、大きく分けて以下の三つについて提言する。一つは、小中学校におけるインターネット利用の拡大である。インターネットに接続されているかいないかで、すでに学校間の差ができてしまう。100校プロジェクト、こねっと・プランのような支援はもちろん、現場の理解が必要なのである。
二つ目は、教員の育成である。コンピュータを扱う場合の技術面もそうであるが、環境教育についての正しい認識を持ち、児童・生徒を指導していける教員が、教科に捉われることなく複数必要だと考える。共同プロジェクトのメーリングリストなどを通じて生まれた教員たちのネットワークは、今後それらを助けるものとして、大きな役割を果たしてくれるのではないだろうか。
三つ目は、インターネット利用を考慮した総合的な環境教育カリキュラムの定着である。再三取り上げてきた『環境教育指導資料』では、マルチメディア、インターネットなどの通信系メディアの利用についてはほとんど議論がなされていなかった。現状での各校の実践は、学校独自の発想などに基づいているため、よいものであっても他の学校の実践に生かされることが少ないと思われる。これら独自の活動を生かし、活動をさらに多くの学校で実践するために、インターネット利用を考慮した指導マニュアルが必要だと考える。
1998年1月に、13校のホームページの追跡調査を行った。中身が更新されていない学校もあったが、年度末を控え活動が終盤に入り、内容がさらに充実していた学校が複数見られた。また、新たに環境教育に取り組み始めた学校もあり、インターネットは環境教育という教育の中で真価を発揮し始めたと言えるだろう。
環境問題は「明日を待てない問題」と言われている。教科書が印刷されている間にも、環境は変化している。「明日を待てない今」を学校教育の中でも的確に理解し、解決法を共に考えていかなくてはならない。そのためにも、インターネットが今後さらに活用されていくことを期待する。
引用文献
赤堀侃司「研究の総括と提案」『新しいメディアに対応した教科書・教材に関する調査研究
−平成8年度文部省調査研究委嘱−』教科書研究センター,P.65-66,1997
教育家庭新聞「Eメールで学校外とも積極的交流」『実践シリーズ エネルギーと環境』
1998-01-01,17面
多田元樹『「マルチメディア」で学校はどう変わるか』明治図書,1995
永谷真一・小川達巳・原田泰「湖沼環境保全のための参加型環境教育プログラムの開発」
『第6回世界湖沼会議 霞ケ浦’95 論文集』P.1599-1602,1995
水越敏行『メディアが開く 新しい教育』学習研究社,1994
文部省『環境教育指導資料(中学校・高等学校編)』大蔵省印刷局,1991
URL
APICNET教育プロジェクト | http://www.apic.or.jp/ |
GAEAプロジェクト | http://gaea.jr.chiba-u.ac.jp/ |
こねっと・ワールド | http://www.wnn.or.jp/wnn-s/ |
新100校プロジェクト | http://www.cec.or.jp/net/ |
鳴門教育大学 環境のページ | http://www.naruto_u.ac.jp/kankyou/ |
100校プロジェクト | http://www.edu.ipa.go.jp/100school/ |
ユキダス・ホームページ | http://www.nice.or.jp/yukidasu/ |
(1998.1.23 現在) |