中国の大学図書館ホームページ その現状と課題
王新萃1 はじめに
中国では1994年5月にインターネット接続が始まり、国内の主要な図書館と情報機関は積極的に新しい技術を取り込んでいた。国家レベルでは、1997年にデジタル図書館の計画が開始され、北京図書館、上海図書館、広東中山図書館、深セン図書館、南京図書館など5館が「中国国家図書館実験型デジタル図書館」という3年間の研究プロジェクトに参加した。また1998年には、政府機関である「文化部図書館司」が文献情報資源の開発利用を目的として、「中国図書館情報ネットワーク」(China Library Information Network)の建設、いわゆる「金図」工程を計画した。
一方、大学レベルでは、「中国教育科研網」(CERNET,http://www.cernet.edu.cn)という大学間のネットワークが作られた。清華大学を中心として、西北、西南、華中、華南、華東や北京、天津など8地区の9大学を接点として、210ヵ所(1997年3月)の大学につながっているネットワークが形成され、大学図書館の電子化、ネットワーク化が進展する条件を整備した。
このようなインターネットの普及に伴い、各大学図書館は次々にホームページを作り、インターネット上で公開した。図書館は従来の「蔵書」を中心としたサービス様式から、「読者の需要」を中心にするサービス様式に変化しつつある。電子化情報資源の比重が増加され、インターネットを通して便利で迅速な情報サービスを提供することは、今後の図書館の発展方向とも言えるだろう。
本稿ではインターネット上で公開された中国の大学図書館のホームページを対象として、その特徴を調査、分析する。調査の対象とするホームページは清華大学図書館が整理、提供した「オンライン図書館」のデータに基づき、全国の各地域を考慮して、中国の行政区分によって4つの直轄市、24省、4つの自治区や香港特別行政区のそれぞれの地域にあるオンライン大学図書館の中で、一つずつ、代表として選ぶことにした。
調査方法は以下の通りである。まず、大学図書館ホームページに関する文献を参考とし、清華大学図書館ホームページの構成や内容を分析していくことによって、A)図書館に関する情報、B)情報サービスについて、C)ウェブページのリンクについて、の3つの群、計29項目からなる調査表を作成した。そして、各大学図書館ホームページに実際にアクセスして、データを収集する。
収集されたデータを分析し、その結果によって、中国の大学図書館ホームページの開設状況、ホームページの構成と内容、その現状と今後の課題について明らかにし、近年の中国大学図書館の電子化進度を把握することが本稿の目的である。
2 調査対象の背景分析
この章では、中国全国の大学図書館ホームページの開設状況を知るために、大学図書館の地域分布や、調査対象となる図書館が所属する大学の分類、評価を明らかにしたい。
2.1 調査対象の地域分布
清華大学図書館のホームページを開くと、インターネットナビゲーターという項目の中で、国内オンライン図書館のリストが見える。数えて見ると、158ヵ所の大学図書館の名前が載せてある。
この中で、北京は18ヵ所、上海は13ヵ所、天津は6ヵ所、重慶は3ヵ所である。この四つの直轄市(省と同じレベルである市)は全体の25.3%を占めた。他の24省の中で、一番多いのは江蘇省の18ヵ所である。次は、広東省17ヵ所、湖北省11ヵ所、四川省8ヵ所、山東省6ヵ所である。吉林省、遼寧省、陜西省、福建省、浙江省は各5ヵ所である。曇南省、甘粛省、広西壮族自治区、新疆維吾尓自治区は各4ヵ所である。黒龍江省、湖南省、河北省、江西省は各2ヵ所である。そして、河南省、山西省、安徽省、海南省、貴州省、青海省、寧夏省、内蒙古自治区は各1ヵ所である。西蔵蔵族自治区の大学はまだオンライン化されていない。
実際にアクセスを試みたところ、重慶市、安徽省、河南省、山西省、海南省、貴州省、甘粛省、青海省、新疆維吾尓自治区、内蒙古自治区、西蔵蔵族自治区など11地区の大学図書館のホームページにはアクセスできなかった。
この11の地区のほとんどは中国の西南、西北、中部などに分布し、経済発展後進地区である。大学の数も少ないし、大学の規模も大きくない。これらの大学図書館は、中国の相当な図書館の現状を代表できると思われる。つまり、中小規模の図書館は通信施設、技術などの原因で、あるいは、図書館資源の電子化、ネットワーク化の重要性をまだ認識していないので、電子化への進展が遅滞している。大学図書館と言っても、全て同じように進行しているわけではない。地域によって、量的にも質的にも大きな差異が見られる。
しかしながら、中小規模の図書館といっても、数量豊富な文献資料を収蔵しているのもある。特に少数民族の多い地区、例えば新疆、内蒙古、西蔵などの図書館では大量の民族文献を収蔵している。中国の悠久の歴史と浩瀚な書籍が貴重な情報資源であることを認識し、これらの情報資源をネットワーク上で公開して、中国の文化伝統がインターネット上で広範に伝達されるようにすることは中国の図書館にとって大きな課題であると思う。
他のアクセスできる地域もいくつかの大学名を載せているが、実際にアクセスできない大学もある。通信施設の原因であるかどうか不明であるが、スムーズにアクセスできる大学の中で、以下の21ヵ所の大学図書館を考察の対象として選んだ。
表1 調査対象の大学図書館URL一覧表
番号 大学図書館名 URL 所在地
1 吉林大学図書館 http://lib.jlu.edu.cn 吉林 2 東北農業大学図書館 http://lbr.neau.edu.cn 黒龍江 3 遼寧大学図書館 http://www.lnu.edu.cn/lnulib.html 遼寧 4 清華大学図書館 http://www.lib.tsinghua.edu.cn 北京 5 上海医科大学図書館 http://www.shmu.edu.cn/library.htm 上海 6 深セン大学図書館 http://library.zsu.edu.cn/ 広東 7 南京大学図書館 http://lib.nju.edu.cn/ 江蘇 8 西安交通大学図書館 http://202.117.24.24/ 陝西 9 西南交通大学図書館 http://202.115.72.87 四川 10 福建省郵電学校図書館 http://www.lib.fjttc.fj.cn.net 福建 11 浙江大学図書館 http://lib.zju.edu.cn/ 浙江 12 湖南大学図書館 http://www.hunu.edu.cn/htm/library/home.html 湖南 13 河北師範大学図書館 http://www.hebtu.edu.cn/library/lib.html 河北 14 煙台大学図書館 http://www.lib.ytu.edu.cn/indexc.html 山東 15 南昌大学図書館 http://www.ncu.edu.cn/text/clibrary.html 江西 16 曇南大学図書館 http://www.lib.ynu.edu.cn/ 雲南 17 広西師範大学図書館 http://www.gxnu.edu.cn/GXNU/LIBRARY/index.htm 広西 18 寧夏大学図書館 http://nxusun.nxu.edu.cn/jxfztsg.html 寧夏 19 南開大学図書館 http://www.lib.nankai.edu.cn/ 天津 20 華中理工大学図書館 http://www.lib.hust.edu.cn/ 湖北 21 香港公開大学図書館 http://www.lib.ouhk.edu.hk/chome.htm 香港
2.2 調査対象が所属する大学の分類、評価
以上の挙げた調査対象は、中国における一般的な分類方法によって、綜合大学、理工大学、農業大学、医科大学、師範大学のように分けられる。綜合大学は10ヵ所(吉林大学、遼寧大学、深セン大学、湖南大学、煙台大学、南昌大学、寧夏大学、曇南大学、南開大学、香港公開大学)であり、全体の5割弱を占めた。理工大学は清華大学、南京大学、浙江大学、西安交通大学、華中理工大学、西南交通大学の6ヵ所と、北京郵電大学の福州分校である福建省郵電学校を合わせて7ヵ所である。農業大学は1ヵ所(東北農業大学)、医科大学も1ヵ所(上海医科大学)である。師範大学は2ヵ所(河北師範大学と広西師範大学)である。
中国の「科学学や科学技術管理」雑誌(1998年第19巻)に掲載された、「中国大学評価」によると、各大学の順位は以下のように表示されている。全国の大学の中で、清華大学、南京大学、浙江大学、西安交通大学が第一、二、四、五のように位置付けられている。綜合大学の中で、南京大学、吉林大学、南開大学は第一、四、五の順位である。理工大学の中で、清華大学、浙江大学、西安交通大学、華中理工大学それぞれは第一、二、三,四の地位である。上海医科大学は医科大学の中で、第三位を占めている。
この大学のランキングを見ると、調査対象の38.1%(8ヵ所の大学図書館)に当たる大学が、中国の大学の先頭に立っていることがわかった。この8ヵ所の大学図書館のホームページは、中国大学図書館の電子化、ネットワーク化の進度を代表していると考えられる。今回の調査では、特にこの8ヵ所の大学図書館ホームページの内容と構成を例として分析する。
3 図書館に関する情報
この章では、図書館に関する情報の調査結果を明らかにしたい。図書館に関する情報とはトップページに書かれたものだけではなく、利用者のために図書館の特徴や概観を示す情報である。基本的な要素は、図書館名、図書館紹介、連絡方法(E-mailや電話)、利用案内、関係規程、図書館最新ニュース等である。この調査では、14の要素を項目として設定した。1999年5月10日から6月20日の間で実際にアクセスし、調査を行った。採取したデータは以下の表で示す。(「◯」はその項目が提供されていることを表示する。空白は提供されていないことを示す。)
表2 図書館に関する情報の有無(大学別)
調査項目 香港公開大学 清華大学 上海医科大学 南開大学 吉林大学 東北農業大学 遼寧大学 煙台大学 河北師範大学 西安交通大学 南京大学 浙江大学 南昌大学 華中理工大学 湖南大学 深セン大学 広西師範大学 西南交通大学 曇南大学 寧夏大学 福建省郵電学校 図書館名 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 静止画像 ◯ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ E-mail先 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ アドレス ○ ○ ○ ○ ○ 電話番号 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 図書館紹介 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 利用案内 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 関係規程 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 開館日程 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 最新ニュース ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 図書館報 ◯ ◯ ◯ 英語バーション ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 最終更新 ○ ○ ○ ○ 訪問統計 ○ ○ ○ ○ ○ 表3 図書館に関する情報提供の比率
項目 提供した図書館数 比率 図書館名 17 81.0% 静止画像 16 76.2% E-mail先 13 61.9% アドレス 5 23.8% 電話番号 8 38.1% 図書館紹介 20 95.2% 利用案内 8 38.1% 関係規程 6 28.6% 開館日程 9 42.9% 最新ニュース 13 61.9% 図書館報 3 14.3% 英語バージョン 9 42.9% 最終更新日 4 19.1% 訪問統計 5 23.8% 表2が示すように、多数の図書館は図書館名、静止画像、図書館紹介などの要素を提示している。表3から見ると、調査された大学図書館の50%以上が提示している項目はa)図書館名、b)静止画像、c)Eメール連絡先、d)図書館紹介、e)図書館最新ニュースの5項目である。
以下、各項目については、比率の高い項目や内容相関の項目から一つずつ分析していく。そして、ここで述べるのは、図書館に関する情報の内容に限定する。形式については考察しない。
(1)もっとも多いのは図書館紹介である。深セン大学以外の全ての図書館はホームページ上で紹介を提供していた。清華大学図書館のトップページの中で、「本館概況」という項目がある。その中には図書館の歴史沿革、図書の収蔵状況、機構の設置などの内容が含まれていた。寧夏大学の紹介の中では、特に寧夏の地方文献や少数民族の蔵書を重視していることが説明されていた。
(2)図書館名については、遼寧大学図書館、河北師範大学図書館、南昌大学図書館のホームページに館名が書かれていなかった。「図書館」とだけ書いてある。
(3)多くの図書館は写真などの静止画像を提供している。それに対して、南開大学のように動画データを使った図書館は非常に少ない。ほとんどの図書館は音声データを利用していなかった。
(4)最新ニュースを提供している図書館は61.9%を占めた。その中で、華中理工大学図書館は、トップページに最新のビデオタイトルの情報を書いている。吉林大学図書館は「アメリカOCLCデータベースを無料で提供している」というニュースをトップページに目立つように書いている。
(5)E-mailアドレス、電話番号や実際のアドレス等の要素は利用者が図書館と連絡するため不可欠なものだから、一つの連絡方法だけでもホームページに書くべきであるが、調査対象の中で、深セン大学図書館のようにアドレス、郵便番号、電話番号、FAX番号や電子メールアドレスを提示している大学図書館はまだ少ない。
(6)英語バージョンについては、3種類に分けられる。A)ホームページの全部の内容に対応する英語バージョンが付いている。B)ホームページの一部分の内容に英語バージョンがある。C)中国語バージョンのかわりに英語バージョンのホームページしかない(湖南大学図書館)。
(7)開館日程は42.9%、関係規程は28.6%の割合で見られた。福建省郵電学校のページの中には、図書閲覧室の開館時間や使用規程、図書の貸出規程等が詳しく書かれている。これらの要素は利用案内の中に含まれているホームページもあった。
(8)利用案内は、利用者のために最も整えなければならない要素であるが、これについては、38.1%の図書館しか提供しなかった。清華大学のホームページでは「利用者案内」という項目が開設されている。その中で、開館時間、図書館規則、各部門への連絡方法、図書所在案内表、中国図書館図書分類表と書誌構成、利用者参考のための専門資料案内、CD-ROM内容や利用案内、情報サービス利用案内、そして、利用者指導の内容、快速検索指南、書誌カードの所在案内等の項目が提供されている。
(9)訪問統計や最終更新日を設計したホームページは23.8%や19.1%である。利用者を引きつけるためには定期的に内容を更新することが必要であると思う。
(10)図書館報については、3館だけが提供していた。華中理工大学は『図書館と読者』という発行物の最新電子バージョンをホームページ上で公表している。同時に、図書館が出版している『国際学術動態』と『情報や開発』の雑誌の電子バージョンも提供している。
4 情報サービスについて
この章では、今回の調査を通して、中国の大学図書館がホームページ上で提供している情報サービスの種類や内容についてまとめる。ネットワーク環境の中で、良く利用されるているのは、情報検索サービス、レファレンスサービス等である。ホームページ上の情報検索サービスは、1)OPAC検索、2)CD-ROM検索、3)オンラインデータベース検索の3種類に分けられる。それに加え、サービス案内、貸出、予約状況照会、利用者の意見や建議に対して対応するサービス(利用者の反応)や、インターネットを使ってオンライン学習を行うインターネット教室の7項目について考察する。以下の表は1999年5月10日から同年6月20日の間で、調査対象のホームページにアクセスして採取したデータを示す。
表4 情報サービスの有無
調査項目 香港公開大学 清華大学 上海医科大学 南開大学 吉林大学 東北農業大学 遼寧大学 煙台大学 河北師範大学 西安交通大学 南京大学 浙江大学 南昌大学 華中理工大学 湖南大学 深セン大学 広西師範大学 西南交通大学 曇南大学 寧夏大学 福建省郵電学校 OPAC検索 ◯ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◯ ○ ○ ○ CD-ROM検索 ○ ◯ ◯ ◯ ◯ ○ ◯ オンラインデータベース検索 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 利用者の反応 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ サービス案内 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 貸出、予約状況照会 ○ ◯ ○ ◯ ○ ◯ インターネット教室 ◯ ○ ○ ◯ ○ ○ 表5 情報サービス提供の比率
項目 提供した図書館数 比率 OPAC検索 15 71.4% CD-ROM検索 7 33.3% オンラインデータベース検索 11 52.4% 利用者の反応 12 57.1% サービス案内 7 33.3% 貸出、予約状況照会 6 28.6% インターネット教室 6 28.6% 表5によれば、情報サービスの提供に関して5割以上を超えた項目は、OPAC検索、利用者反応とオンラインデータベース検索である。そして、表4を分析すると、各大学が提供しているサービスの項目数は非常にアンバランスの状態であることがわかる。清華大学図書館が全ての項目を提供しているのに対して、河北師範大学等の図書館は全く空白である。
以下、比率の高低の順序にしたがって、一つずつ項目を分析していく。
(1)OPAC検索については、71.4%の図書館がホームページ上で提供した。これは多くの大学図書館が所蔵文献のデータベース化に取り組んでいることを示している。清華大学図書館のオンライン図書目録検索はWWWとTELNET二種類の方式を提供しており、北京の他の図書館においても目録検索ができる。華中理工大学は四つのデータベース(中国語図書、英語図書、ロシア語図書や日本語図書)を提供しており、出版者、出版年月日等の条件によって検索ができる。
(2)ホームページ上で、図書館についての利用者の反応(意見や建議)を受ける機能を備えている図書館は57.1%を占めた。ホームページは図書館や読者の間の交流やフィードバックのために有効で便利な手段である。61.9%の図書館ホームページがウェブマスターへの電子メールアドレスを提供していたが、読者の意見や建議についての返事を公表したホームページはごくわずかである。
(3)オンラインデータベース検索については、52.4%の大学が提供しており、その多くは有料サービスである。例えば、浙江大学のDIALOGオンライン検索サービスは、有料で、世界中400以上、ほぼ全ての学術データベースや商業データベースを検索することができる。南開大学も同じようなサービスを提供している。煙台大学のオンラインデータベース検索は「自然科学データベース検索」、「社会科学データベース検索」、「総合データベース検索」、「特許権標準データベース検索」の四種類に分かれている。
(4)多くの図書館は自館のCD-ROMサービスを紹介していたが、その内容はほとんどCD-ROMの種類と内容に限っている。大学内部のネットワークエリアでCD-ROM検索を行っている大学図書館は、33.3%の比率だけである
(5)33.3%の図書館は自館で行われているサービスについて案内していた。例えば、清華大学のサービス案内では特色サービスと基礎サービスの二種類に分けて案内していた。特色サービスの中では、A)最新科学技術資料検索諮問、B)図書館間の相互貸出、C)利用指導について、D) OCLCサービスについて、E)教科書サービスについて、F)特別な蔵書について、G)雑誌目次のタイトルを知らせるサービス、H)SCI諮問サービス、の8項目のサービス内容について紹介していた。基礎サービスの中には、貸出や閲覧サービス、OPAC検索、 CD-ROM検索、オンラインデータベース検索などの紹介がある。
(6)貸出、予約状況照会サービスについては、21館の中で、5館しか提供されていなかった。曇南大学図書館は、読者が図書の貸出、予約状況を調べるシステムを提供していた。
(7)インターネット教室というのは、前述のように、ホームページや電子メールを通して、インターネットやコンピュータ等の内容についてオンライン学習を行うことができるシステムである。華中理工大学のホームページでは、検索の方法、SCIの使用方法、HTML言語、INTERNET入門などの内容を提供していた。
以上分析してきたように、ネットワーク環境の中で、大学図書館はホームページや電子メールを利用して、館内の資料にとどまらず、館外のデータベースやネットワーク情報資源から得られる情報を、遠隔地にいる利用者にも提供している。このような情報サービスはより広域的な、積極的なサービス様式とも言えるだろう。
5 ウェブリンクについて
この章では、調査対象のホームページのウェブリンクについて述べる。今回調査した多数の大学図書館はネットワーク情報資源の収集や整理を重視している。しかし、全面的に、系統的に整備されているとは言えない。3章、4章と同様に、1999年5月10日から6月20日の間で採取したデータを以下の表で示す。
表6 ウェブリンクの有無
調査項目 香港公開大学 清華大学 上海医科大学 南開大学 吉林大学 東北農業大学 遼寧大学 煙台大学 河北師範大学 西安交通大学 南京大学 浙江大学 南昌大学 華中理工大学 湖南大学 深セン大学 広西師範大学 西南交通大学 曇南大学 寧夏大学 福建省郵電学校 大学ホームページ ◯ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◯ ○ ○ CERNET ○ ◯ 国内の大学図書館 ○ ○ ◯ ○ ◯ ◯ ◯ ○ ○ ◯ ◯ ◯ ◯ ○ 外国の大学図書館 ○ ◯ ○ ○ ○ 捜索エンジン ○ ◯ ◯ ○ ○ ○ ○ 他のネットワーク情報資源 ◯ ○ ◯ ◯ ◯ ◯ ○ ◯ ○ ○ ◯ ○ ◯ 電子文献 ○ ◯ ○ ◯ ○ ○ ◯ ◯ 学術研究機関 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 表7 ウェブリンク提供の比率
項目 提供した図書館数 比率 大学ホームページ 15 71.4% CERNET 2 9.5% 国内の大学図書館 14 66.7% 外国の大学図書館 5 23.8% 検索エンジン 7 33.3% 他のネットワーク情報資源 13 61.9% 電子文献 8 38.1% 学術研究機関 5 23.8% データを見ると、5割以上を超えた項目は、A)図書館が所属する大学ホームページへのリンク、B)中国国内の大学図書館へのリンク、C)調査項目に含まれていない特色のあるネットワーク情報資源へのリンク(電子会議や政府機構等)の3項目である。以下、割合の高い項目から分析していく。
(1)大学ホームページへのリンクは71.4%の図書館が提供した。吉林大学図書館のように、トップページ上の画像をリンクのボタンとして使うページもあるし、西南交通大学のように、国内の大学へのリンクというページの中で自館の大学へのリンクを含んでいるページもある。利用者にとっては、前者の方が便利だと思われる。
(2)中国国内の大学図書館へのリンクについては、清華大学図書館や華中理工大学図書館が地域別に詳しく整理、提供していた。他の大学図書館も何らかの基準を持って、系統的に大学図書館ホームページへのリンクを提供すると良い。
(3)他のネットワーク情報資源というのは、大学の学科分野の特色を考えて、関連のあるネットワーク情報資源を分類し、提供するということである。西南交通大学図書館のように、「国際相関交通資源」や「鉄路情報資源引導」等のネットワーク情報資源を整理することは、多くの研究者にとって便利なことであると思う。そして、清華大学は国内の政府機構へのリンクを提供している。深セン大学は経済、法律、文学、通信や電子学、建築学の学科別に、それぞれの分野に関連するリンクを提供した。
(4)電子文献は電子新聞、雑誌、科学論文、電子ジャーナル、電子会議等を含んでいる。これらへのリンクのあるページは38.1%を占めた。多くの図書館ではオンラインの中国語の新聞や雑誌を提供している。上海医科大学図書館は、医学に関する電子ジャーナルを提供している。
(5)検索エンジンを提供したページは33.3%である。インターネット上でよく使われている中国語の検索エンジンは、「捜狐」(http://www.sohoo.com.cn)、「北極星」(http://www.beijixing.com.cn)、「常青藤」(http://www.tonghua.com.cn)、「網易」(http://www.yeah.net)等である。これらの検索エンジンを用いて、国内外のオンライン大学図書館を検索することもできる。福建省郵電学校のページが、以上の検索エンジン、また中国語のYahoo!Chinese(http://www.chinese.yahoo.com)のリンクを提供している。さらに、英語の検索エンジン、例えば、「Yahoo!」、「Alta Vista」、「Infoseek」、「Excite」、「Lycos 」、「Hotbot」等も備えている。浙江大学にはメータ検索エンジンの「Cyber411」、「DigiSearch」、「Dogpile」、「Highway61」、「MetaCrawler」等のリンクもある。
(6)学術研究機関や外国の大学図書館の項目は、どちらも23.8%の比率を占めた。清華大学図書館は、重要な学会サイトや、国内の科学研究機関へ接続している。福建省郵電学校は、Institute of Electrical Engineers(IEE)等の国外の重要な学協会サイトへリンクしている。外国の大学図書館ホームページへのリンクは、国内のリンクに対してかなり少ないが、そのほとんどがアメリカの大学へのリンクであることに気づいた。今後は、より多くの外国の大学図書館ホームページへのリンクが増えることを期待したい。
(7)CERNETへのリンクは清華大学と南京大学しか提供していなかった。前述のように、CERNETは中国の教育科学研究ネットワークで、全国で最も早い通信ネットワークであり、中国の大学における教育や研究をサポートしている。CERNETと接続している大学は、中国国内で200ヵ所以上もある。オンライン大学図書館としては、このようなネットワークにリンクすれば、利用者にとって有効な情報源になるだろう。
6 まとめ
以上分析してきたように、大学図書館のホームページが具備すべき基本的要素としては、以下の7項目が考えられる。すなわち、1)図書館名、2)図書館に関する紹介、3)関係規程、4)連絡方法、5)図書館最新ニュース、6)英語バージョン、7)OPAC検索である。先進的なホームページには、国内外の大学や図書館、精選されたネットワーク情報資源へのリンク、電子化した文献の提供、レファレンスサービス、オンラインデータベース検索等の要素も見られ、今後は多くの大学図書館ホームページがこのような機能を持つ方向へ進むだろう。
項目別の提供率に注目すると、以下のことがわかった。(1)提供率75%以上の項目は3項目で、このうち90%を超えているのは1項目(図書館紹介)であった。(2)提供率が24%以下の項目は7項目で、このうち10%以下は1項目(CERNETへのリンク)であった。(3)図書館に関する情報の提供率については、14の項目を調査したが、図書館報、最終更新日の提示はまだ少なかった。(4)情報サービスの提供率について7項目を調査した結果、大部分が25%以上74%以下の範囲に含まれた。CD-ROM検索や貸出、予約状況照会等のサービスは、今後さらに多くのホームページ上で利用可能になることが望ましい。(5)ウェブリンクについて8項目を調査した。CERNET、外国の大学図書館へのリンクを提供していたホームページは少なかった。そして、特色のある電子文献や学術研究機関へのリンクは充実することが望ましい。
図書館別にサービスの実施状況を比較したものが以下の表である。この表は、29の調査項目に限って、それぞれの大学が提供している項目数を示している。
表8 各大学が提供している項目数
提供項目 香港公開大学 清華大学 上海医科大学 南開大学 吉林大学 東北農業大学 遼寧大学 煙台大学 河北師範大学 西安交通大学 南京大学 浙江大学 南昌大学 華中理工大学 湖南大学 深セン大学 広西師範大学 西南交通大学 曇南大学 寧夏大学 福建省郵電学校 図書館に関する情報 5 10 6 9 10 6 2 9 1 5 9 9 2 10 4 8 3 9 5 4 10 情報サービス 3 7 4 4 1 2 1 4 0 6 4 4 0 5 1 4 1 6 3 0 3 ウェブリンク 2 8 1 2 3 4 2 6 1 5 6 5 0 4 2 5 0 4 2 0 7 合 計 10 25 11 15 14 12 5 19 2 16 19 18 2 19 7 17 4 19 10 4 20 表8からみると、ホームページの内容や重点、そして製作水準には大きな差が見られる。地域、所属大学のレベル、図書館の状況や製作者によって、各大学図書館がホームページ上で提供している項目数はかなり異なっている。ある大学図書館のホームページは、サービスの内容も豊富で、構成もよくできている。それに対して、ある図書館のホームページは紹介の文章だけ書いてあるが、サービスの機能が全く働いていない。
そこで、今後のホームページの製作については、いくつかの建議を提出したい。(1)ホームページを作る時には、その内容と一致するタイトルを作るべきである。タイトルの中に含まれたキーワードは利用者が検索するときに使いやすいようにすべきである。というのは、インターネット上の多くの検索エンジンはホームページのタイトルのキーワードによって検索を行っているからである。(2)ただ作るのではなく、図書館ホームページの主旨や目標をはっきりすべきである。(3)効果的な情報伝達のために、動画データや音声データ、フレームなどの新しい手段を適当に使うべきである。(4)頻繁に内容を更新し、新しい情報を提供することで、より多くの利用者を引きつけることができる。図書館ニュース、新着資料の知らせや資料の薦めなどの内容は、利用者を喜ばせるだろう。(5)大学図書館ホームページが提供しているウェブリンクは、どの図書館もほとんど同じ内容で、情報資源としての特色が欠乏している。もちろん、インターネット上の中国語の情報資源はまだ豊富ではないが、大学図書館としては、重点学科建設の要求に応じて国内外の関連する情報資源を整備すれば、各館の特色が現れるようになるのではないだろうか。他のサイトとリンクする時に、特色が現れるように、一定の基準を持ってリンクすべきである。(6)調査の間、筆者はある大学図書館のホームページが時々アクセスできないことに気づいた。原因は多分その図書館のサーバーが運行していないためだろう。大学のサーバーは夜間や休日でもサービスを提供すべきである。というのは、図書館ホームページは時間や地域の制限を越えて、24時間サービスを行うところに利点があるからである。(7)中国の大学図書館ホームページを見ると、有効なネットワーク管理の規則や政策を欠いているように思われる。アメリカ議会図書館のように、インターネットについての政策を制定し、司書のインターネット使用上の権利や義務、インターネットを使う時のエチケット等の内容を明確することが今後の課題であろう。
今回の調査では、中国の大学図書館ホームページの現状を、その内容、構成、使いやすさという視点から考察し、それぞれの課題を明らかにした。中国の大学図書館ホームページはこれからさらに増えると思われる。本稿では中国の大学図書館を対象として調査したが、今後の課題としては、日本の大学図書館ホームページの現状と比較することによって、中国の大学図書館がより一層サービスを充実し、ホームページを改良するための方策を探って行きたいと思う。
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