カナダにおける図書館の経営

アルバータ大学の事例から

京極 依子

1 はじめに

 海外の大学図書館の経営方針を調査するため、カナダをその調査対象に選んだ。大規模の図書館として、アルバータ州の州立大学である、アルバータ州立大学を対象にした。アルバータ州立大学は、アルバータ州の州都であるエドモントン市の郊外に位置する総合大学である。

 調査方法は内部観察、文献調査の他、北米の111の大学図書館について、統計をとっているARL (Association of Research Libraries : 図書館調査委員会)の存在を知り、インターネットで統計データを入手し、分析するものとする。

 本論文では、アルバータ大学図書館を、資料、利用、職員、経費の面からARL統計を中心に分析し、経営状況を明らかにしていくことを目的とする。

2 大学と大学図書館の概略

 アルバータ大学は、カナダ・アルバータ州の州都エドモントン市に位置する、カナダではトロント大学、ブリティッシュコロンビア大学に次いで3番目に大きな州立大学である。学部数18、大学院学科数123を設置している(University of Alberta, "calendar", 2000, p. 693)。

 大学の公式ホームページによると、同大学の1999年の学生数は、学部学生25,869名(うちパートタイム2,337名)、大学院生4,784名(うちパートタイム1,816名)である。総教員数は、3,363名、職員数は3,383名である(U of A1, 2000)。

 本章では、アルバータ大学内の図書館を紹介し、またこの大学図書館全体が、周辺の図書館にどのような役割を果たしているかを紹介する。

2.1 大学内の図書館

 はじめに、アルバータ大学内の各図書館について述べる。アルバータ大学には、大きく分けて6つの図書館と、BARD (Book And Record Depository) と呼ばれる書庫が存在している。

 6つの大学付属図書館について、大学案内 University of Alberta Calendar 2000/2001 には、簡単な解説が以下のように記載されている。

1: Rutherford Library

 人文科学系の図書館であり、書籍、定期刊行物、政府刊行物で170万のコレクションを有する。

 また、50万以上のマイクロフォーム、4,500以上の定期刊行物を所蔵し、カナダだけではなく、各国の新聞も多く所蔵している。ビジネス関係の参考図書も豊富に備えている。

2: Cameron Library

 理工学系の図書館。主に、科学、工学、農学、林学、経済分野の資料を所蔵している。内部ではさらに、数学系と物理科学系に分かれている。また情報技術サービス、書誌サービス、行政サービス、館対館の相互貸借、宅配サービス、全学的な利用者証の発行管理を行なっている。

3: Education Library

 教育学部内に存在し、教育学系の資料を中心に所蔵。

4: Health Science Library

 ヘルスサイエンス(健康科学)の資料を所蔵。予約、レファレンスも盛んに行なわれている。また、Phyllis Russell Rare Book Roomでは、貴重な歴史資料を保存している。

5: Law Librar

 カナダ、アメリカをはじめとして、各国の法律関係の報告書、成文法を収集、保存している。収集資料は他に、定期刊行物、論文、教科書、政府刊行物、参考文献に至る。また、書籍、マイクロフォーム、視聴覚資料等も所蔵しており、電子データベースにもアクセスを可能にしている。

 最近は収集内容が原油法、ガス法、健康法、コミュニケーション法にまで拡大している。

6: Bibliotheque Saint-Jean

 所蔵数は15万冊以上(図書、定期刊行物、政府刊行物)。

 分野は、人文社会学系、教育学、科学など。また、フランス系カナダの歴史、文学の収集に力を入れているのが特徴。英語よりは、フランス語の文献が多い。

(U of A, "calendar", 2000, p. 700)

 上記6館の中では、特に、Rutherford Library とCameron Library が大きく、それぞれ内部でさらに以下のように分かれている。

<Rutherford Library>
* Bruce Peel Special Collection Library
* Film / Video Collection
* Music Library
* Winspear Business Library

<Cameron Library>
* Canadian Circumpolar Library
* Mathematics Branch Library
* Physical Science Branch Library
* SciTech Special Collections
* William C Wonder Map Collections

2.2 NEOSとARL

 次に、アルバータ大学図書館のネットワークについて述べる。

 NEOS (ニオス)とは、アルバータ州中部北部の23の図書館が加盟する図書館ネットワークの名称である。NEOSの主な活動は、共通のオンラインカタログを作成提供して、加盟館の相互利用に役立てることにある。アルバータ大学は、1993年に加盟しており、図書館でNEOSデータベースの使用を開始した。図書館内に設置している端末から、NEOSデータベースにアクセスすることができ、アルバータ大学内の所在場所を表示すると同時に、NEOSに加盟する他の所蔵図書館もリスト表示される。

 また、ARL (エーアールエル)とは、 Association of Research Libraries:図書館調査委員会の略称である。アメリカを中心に、現在111の大学図書館が加盟しており、統計データを毎年提供して、それを元にランキングリストも提供している。加盟大学はアメリカが中心であるが、カナダでは、トロント大学、ブリティッシュコロンビア大学、そしてアルバータ大学が加盟しており、アルバータ大学は1969年に加盟した。

 このARLは、1961年から、毎年加盟大学図書館の統計を取っている。それ以前は、 Gerould統計と呼ばれ、1908年からの1960年まで統計を取っていた。現在のARL統計がその後を引き継いでいる。統計の内容は、収集、配置、費用、図書館サービス、大学の特性などに関するデータである。本論文では、これよりARL統計を元に、アルバータ大学図書館の経営を分析していく。

 ARL統計によると、1999年におけるアルバータ大学図書館の館対館の相互貸借数は、以下の通りである。

図表 2-1 アルバータ大学図書館の相互貸借数(NEOS加入前後の比較)

1992年(1) 1999年(2) (2)÷(1)

貸出件数[1] 66,269 78,699 1.19
借受件数[2] 17,812 35,526 1.99
[1]÷[2] 3.72 2.22

(fisher1, 2000)

 アルバータ大学図書館は、館外貸出件数が借受を上回っていると言えるが、貸出件数÷借受件数[1]÷[2]を見ると、NEOSに加入前の1992年は3.7倍、加入後の1999年は2.2倍になっており、その差は縮まっている。一方で、1999年と1992年の相対比(2)÷(1)を見ると、借受件数が、NEOS加入後の現在ではほぼ倍増していることが分かる。

 他大学と比較すると、ARLの加盟大学全111大学の中では、貸出件数は、多い順から5番目に位置し、借受は12番目に位置している(fisher2, 2000)。他大学と比較しても、相互貸借件数は、相当多いことが分かる。

 単純計算すると、アルバータ大学では、貸出、借受合せて1日平均300件以上の相互貸借が行なわれていることになる。1993年にNEOSに加入したことにより、特に他館からの借受件数が大きく伸びた。一方で他館への貸出も盛んに行なわれ、NEOSネットワークの重要な役割を担っていると言える。

3 資料について

 図書館資料に関する統計は、一定の時点における状態を調べることによって作成される静態統計と、一定の期間内に継起する事象を計数することによって作成される動態統計の二つがある。静態統計としては所蔵統計、動態統計としては収集統計がある(糸賀, 1990, p. 369)。

 コレクションの内容から、その図書館の特性や収集方針を知ることができると考え、そこで本章では、アルバータ大学図書館のコレクションについてのデータをタイプ別に見て、その特性、収集方針を分析することを目的とする。

 アルバータ大学図書館の所蔵統計、収集統計についてのARLデータを見ることにする。

3.1 所蔵統計

 ARLは加盟している大学図書館についての統計調査を行なっており、毎年データを提供している。それを元に、アルバータ大学図書館の所蔵状況をみることにする。

図表 3-1 1999年度 アルバータ大学図書館所蔵状況

種類 所有数

図書・定期刊行物 5,376,450
マイクロフォーム 3,621,675
アーカイブス・原稿 15,047
地図類 1,378,050
コンピュータファイル(含 CD-ROM) 7,397
視聴覚資料 データ無し
政府刊行物 (735,000)

(fisher1, 2000)

 視聴覚資料、政府刊行物についてのARLのデータはなかった。政府刊行物については、今年度の大学案内を見ると、約735,000との記載があり、それを参照した(University of Alberta, 2000, p. 700)。

 図書・定期刊行物数は、1990年は2,956,553であったことから(fisher1, 2000)、最近10年間で倍近い増加を見せていると言える。

 また図書・定期刊行物の合計数5,376,450は、ARLに加盟する全111大学図書館の中では18位に位置しており、図書・定期刊行物は豊富なコレクションであると言うことができる(fisher2, 2000)。

 特筆すべきなのは、地図類の1,378,050である。アルバータ大学では、2.1でも述べたように、Cameron Library内に地図のコレクションを特設するほど、地図のコレクションは豊富である。その多さは、ARLの全111大学図書館中では、カルフォルニア・サンタバーバラ大学に次いで堂々2位にランクされている(fisher2, 2000)。

3.2 アクセス可能なデータベース

 最近では、データベースも図書館資料として、アクセス可能な外部データベース(もしくはオンラインサービス)の数を所蔵統計に含める必要が出てきている(糸賀, 1990, p. 369)。

 オンラインサービスには、書誌情報、新聞記事などのフルテキスト、統計数値や人物情報、また画像などを検索するものがある。アルバータ大学図書館でも、パソコンネットワークの普及により、オンラインデータベースの使用が可能である。

 そこで、アルバータ大学図書館から利用可能な外部データベース、オンラインサービスの数をホームページから調査した。2000年12月現在、アルバータ大学図書館からアクセス可能な外部データベース、オンラインサービスは11のタイプに分けることができ、その総数は396である。

 その結果をグラフに表したものが、以下のグラフである。

図表 3-2 アクセス可能なデータベース、オンラインサービス(2000年12月現在)

(University of Alberta1, 2000をもとに作成)

 このデータベースは、毎週のように増加傾向にあり、更新されると、図書館スタッフにメールで通知される。上のグラフから、Index and Abstracts :書誌情報データベースを多く提供していることが分かる。

3.3 収集統計

 ARLは、所蔵統計だけではなく、一定期間内のデータとして、収集統計データも提供している。

 その1つとして、1999年1年間にアルバータ大学が追加した図書、定期刊行物数を以下に表で示す。

図表 3-3 1999年度 アルバータ大学図書館の図書、定期刊行物追加数

種類 購入 非購入

図書 23,381 46,633 70,014
定期刊行物 23,155 7,584 30,739
46,536 54,217 100,753

(fisher1, 2000)

 非購入には、個人または施設等からの寄贈、譲渡がある。

 図書の場合、非購入数が購入数の2倍になっている。逆に定期刊行物の場合は、購入数が非購入数の3倍を示していることが分かった。定期刊行物は、新しい資料を要求されるために購入数が多くなっていると言える。

 ARL統計では、政府刊行物数は記載されていなかったため、上表には政府刊行物は含まれていない。大学案内には、政府刊行物数は約735,000とのデータがあり(University of Alberta, "calendar", 2000)、これを含めると、特に定期刊行物の購入に相当数が上乗せされることが予想される。6章の経費の部分でも触れるが、政府刊行物を含めた資料購入費は、定期刊行物購入費と図書購入費が3:1となり、定期刊行物購入費は図書のそれを大きく上回っている。政府刊行物が、経費の面で大きく影響していることから、購入数でも同じことが言えるであろう。

 一方で、アルバータ大学では、寄贈書を積極的に受け入れており、海外から受け付けることも少なくない。内部観察では、ハワイからの寄贈書も確認した。この非購入の合計数54,217を単純に365で割ると、1日平均約150冊の寄贈書を受け入れていることになる。寄贈されてきた資料がすべて大学図書館のコレクションに加わるわけではないことを考えると、実際はそれ以上の数が予想される。

 以上から、アルバータ大学図書館の所蔵数は年々増加し、取り扱う資料の内容も、オンラインサービスを導入するなど、多様化してきていると言える。特に地図のコレクションは相当な数にのぼる。寄贈書も積極的に受け入れており、政府刊行物を除いた図書、定期刊行物の年間追加数は10万冊以上である。年間購入数で見ると、図書と定期刊行物の年間購入数はほぼ同数であるが、これは政府刊行物を含めない場合であり、政府刊行物735,000(大学案内より)を含めると、特に定期刊行物の購入数が相当数にのぼることが予想される。それだけ政府刊行物は、アルバータ大学図書館のコレクションでも重要な位置にあると言える。

4 利用について

 図書館の経営を分析する上で、利用状況を知ることは重要であると考え、本章では、アルバータ大学図書館の貸出、利用者証、レファレンスサービスについてを、ARL統計を元に見ることにする。さらに、図書館の利用者に対する考え方と、サービスのあり方について分析する。

4.1 貸出件数

 ARL統計によると、アルバータ大学図書館での1999年の総貸出件数は、1,030,207件であった(fisher1, 2000)。この数字は、学内貸借だけではなく、Interlibrary loan つまり他館との相互貸借件数も含んでいる。Interlibrary loan をも含めた、この年間全貸借件数1,030,207件は、ARLに加盟している全111の大学図書館の中では、多い順から17位に位置しており、他大学と比べて多いと言うことができる。ちなみにカナダの大学では、ブリティッシュコロンビア大学が3,175,096件で1位、トロント大学が、2,223,868件で4位に入っている(fisher2, 2000 3大学はデータ無し)。

 アルバータ大学の、1,030,207件の全貸出件数のうち、Interlibrary loan(相互貸借)は、11%にあたる11万4,000件余りとなっている。2章でも述べたように、このInterlibrary loanだけの件数に注目すると、アルバータ大学は多い順から貸出が5位、借受が12位と、さらに順位を上げている(fisher2, 2000)。アルバータ州の州立大学図書館として、図書館ネットワーク(NEOS)の中心的な役割を担い、相互貸借を盛んに行なっていると言える。

 また、Inter Library loanを差し引いた、残りの約91万6,000件が学内貸借され、単純に365で割ると、1日平均約2,500件の学内貸借が行なわれていることになる。

 予約貸出件数について、ARL統計にはそのデータはなかったが、筆者の内部調査により、1999年は98,945件であることが分かった。1998年の予約貸出件数115,343件と比べると減少しているが、それでもなお、1日平均270件の予約を受け付けており、予約サービスは重要なサービスの1つといえる。

 貸出の方法は、直接利用者に資料を手渡す方法の他に、コピーサービス、そして宅配という方法も行われている。宅配は最初に申込手続きを行なえば、あとは電子メール、電話、ファックス、手紙等で宅配サービスを依頼できる。原則として、エドモントン市から50キロ以上離れた所に住んでいる学生をサービスの対象とし、1冊につき手数料5ドル、他館から借り受けた資料の場合は5〜15ドルとなっている(University of Alberta, "Overview", Sep/1999)。

 アルバータ大学図書館は個人だけではなく、他館とも積極的に貸借を行ない、その貸借方法も可能な限り利用者の要求に応えていると言える。

4.2 利用者証

 アルバータ大学では、学生とスタッフの身分証明書ともなるONEカード(ワンカード)を発行しており、このONEカードがあれば、大学図書館の利用は可能である。ONEカードは、顔写真付き身分証明書であり、学生には入学の際に全員に発行、配布される。このONEカードがあれば、図書館の利用だけでなく、大学施設の利用、学内ロッカーの借り受け、またキャッシュカードとしても利用できる。

 このONEカードは、アルバータ大学の学生かスタッフでなければ所有できないが、アルバータ大学では、学外者でも図書館を利用できる。学外の利用者には、The Alberta Library Card を発行している。これはアルバータ大学図書館をはじめ、アルバータ州内の231ヶ所の図書館で共通に利用できるカードである。

 またその他の利用証として、学外者がアルバータ大学図書館のみで利用できるカードや、NEOSに加盟している他の大学の図書館利用者証もアルバータ大学図書館で利用可能である。

 このように、アルバータ大学図書館は、学内だけではなく、学外にも広く開放している。その登録者数は、把握が困難なのが現状である。その理由として、利用証が1種類だけではないこと、またアルバータ州内で共通に利用できる施設が複数あり、利用証の発行場所も複数であることなどが挙げられる。ONEカードの所有者だけでも全学生数の約4万人は存在することは確かである。

4.3 レファレンス統計

 アルバータ大学には、独立した図書館が全部で6館設置されていることは、2章で述べた。学内の内線電話一覧 Telecommunications Directory 2000 を参照すると、アルバータ大学には、レファレンスデスクと呼ばれる、レファレンス担当のデスクが各学内図書館に1ヶ所ずつ、Rutherford Library内には2ヶ所設置されている。

 ARL統計によると、アルバータ大学図書館が1999年の1年間に受けたレファレンス件数は、170,932件であった。この数字を単純に365で割ると、合計7ヵ所のレファレンスデスクで1日平均460件余りのレファレンスを受け付けていることになる。この数字は多いようにも感じるが、時系列的に見ると、年々減少してきている。2年前の1997年と比較すると、半数以下になっている(fisher1, 2000)。レファレンスの内容は、研究、学習に関するものから、趣味、娯楽に関するもので考えられるが、ARLでは内容までの統計は取っていない。

 レファレンスの受け付け方法は、直接デスクへ出向いて尋ねる方法や、電話、手紙、ファックス、電子メールでも受け付けている。アルバータ大学図書館のホームページには、直接各レファレンスデスクへ電子メールを送信できるページを設けていることから、レファレンスを積極的に受け入れているが、その件数は年々減少しているのが現状である。

 貸出件数は、年々着実に伸びている一方で、レファレンスの件数がここ数年間で半減している理由の1つに、資料の所在や書誌情報などの質問は、レファレンスデスクに持ち込まなくても、利用者自身がデータベースを使用して検索しやすくなった、という点が考えられる。この事実は、利用者にとって使いやすいデータベースの導入の結果として、好意的に評価する。レファレンスサービスの件数は減少しているとはいえ、重要なサービスの1つであることには変わりない。

 以上、利用について分析した。アルバータ大学図書館は、学内外を問わず広く利用者に開放された図書館といえる。その利用の方法は直接利用者が図書館に赴くだけではなく、通信技術の発達に伴なって、さまざまな方法で利用者の要求に応えようとする姿勢が見られる。登録者については、その数は把握が困難なのが現状である。

 また、利用の方法、資料の数・種類などが多様化する一方、減少するサービスもあることが分かった。予約サービスとレファレンスサービスがそれにあたるが、これは時代の変化に伴なう結果として捉える。

5 職員について

 本章では図書館経営を、職員に注目して調査した。職員のタイプには、専門職員、パートタイム職員、学生アルバイトがある。これらの人数と割合、経年変化を分析する。また図書館内部の職務分担と図書館職員教育について調査し、図書館経営の特徴、傾向を明らかにする。

5.1 職員数

 ARLのデータによると、1999年度におけるアルバータ大学図書館の職員数は、328名であった。その内訳を表にすると、以下のようになる。

図表 5-1 1999年度 アルバータ大学図書館全体の職員数

種類 職員数 割合

Professional Staff:専門職員 62 18.9%
Support Staff  :パートタイム職員 208 63.4%
Student Assistants:学生アルバイト 58 17.7%

(fisher1, 2000)

 パートタイム職員の割合が63.4%と高いのが特徴である。他大学と比較すると、ARLに加盟している全111大学のうち、最多職員数であるハーバード大学のパートタイムの割合は48.9%、カナダの大学で見ると、トロント大学は53.4%、ブリティッシュコロンビア大学は58.2%で、他大学と比較しても多いと言える(fisher1, 2000)。週労働時間は、フルタイムであるProfessional Staff(専門職員) が35時間と規定されている。Support Staff(パートタイム職員) の週労働時間は、そのうちの何%、という割合で決定し、その割合には個人差がある。

 次に職員数の経年変化を見ることにする。以下のグラフは、ARLデータを元に、1970年から1999年までの30年間のProfessional Staff(専門職員)、Support Staff(パートタイム職員)、Student Assistants(学生アルバイト)の、それぞれの人数の経年変化を表したものである。

図表 5-2 アルバータ大学図書館職員数の経年変化

(fisher1, 2000により作成)

 上のグラフから、職員数の合計は、30年間で緩やかに減少してきていることが分かる。1980年代までは、386名から427名の間で増減を繰り返していたが、1990年代に入ると、確実に減少している。合計人数は、1972年が427名と最も多く、この時期と比較すると、1999年度は、Professional Staff(専門職員)は87名から62名に、Support Staff(パートタイム職員)は309名から208名にまで減少し、全体では91名減少した。それに対し、棒グラフ上層部のStudent Assistants(学生アルバイト)は、31名から58名となり、2倍近い増加を見せているのが特徴である。アルバータ大学の学生数は、増加傾向にある。所蔵数、貸出件数等も増加している。それに対して、図書館職員数は減少しているのである。したがって、図書館職員1人に対する学生数が増加していると言える。

 職員の司書資格の有無について、ARLでは統計をとっていないが、パートタイム職員の中にも司書の有資格者が存在することは、筆者の内部観察により明らかである。また、内部観察では、学生アルバイトの主な仕事は、資料の整理である。増加する所蔵数、貸出件数などに対応して、学生アルバイトを増加させ、資料整理にあたっているものと見られる。

5.2 職務分担

 次にアルバータ大学図書館では、どのような職務に分担されているか、という点を調査した。

 大学全体では、副学長1名を筆頭に、ディレクターと呼ばれる役職の者を1名、以下アソシエートディレクターが6名存在する。アソシエートディレクター6名をそれぞれAD1〜AD6とすると(順不同)、それぞれ職務内容が以下のように分担されている。

* AD1: Information Tech Service
* AD2: Health Sciences / Cameron Library内各コレクション
* AD3: Education Library / Bibliotheque Saint-Jean / Rutherford Library内各コレクション/ Law Library
* AD4: Bibliographic Service Unit
* AD5: Personnel / Financial Systems & Analysis / Staff Development & Training
* AD6: Interlibrary Loan (BARD) / Facilities / Administration Services

 アソシエートディレクターは、AD1からAD6まで、職務内容で明確に分担されていることが分かる。AD2とAD3は、2.1で紹介した分館を2つに分け、それぞれを管理している。AD2とAD3で貸借を行なう一方、Interlibrary Loan(相互貸借)は、その他の貸借とは別にして、専門に担当するアソシエートディレクター(AD6)が存在する。

 以上は、各アソシエートディレクターが担当する職務分担である。

 次に1つの図書館内では、どのような職務に分担されているかを見ることにする。学内でも特にCameron Libraryを取り上げ、学内の内線電話番号一覧表 Telecommunications Directory 2000 を参照し、内線電話を設置している箇所を調査するとともに、スタッフに聞き取り調査を行なった。

 Cameron Library内で、内線電話を設置している部署は、以下の12ヶ所である。

1. Cameron Classroom
2. Circulation and Reserve
3. Reference Desk
4. Bibliographic Service Unit
5. Information Technology Service
6. Interlibrary Loan Document Delivery
7. Administration
8. Canadian Circumpolar Library
9. Mathematics Branch Library
10. Physical Science Branch Library
11. SciTech Special Collections
12. William C Wonders Map Collections

(U of A, 2000)

 1から7は職務内容で分担された部署であるが、8から12はコレクション内容で分担された部署である。4と7以外は利用者に対して直接サービスを行なう。この4の、Bibliographic Service Unitは、書誌サービスを行なう部署である。この部署は、学内の他の図書館にはなく、Cameron Libraryにのみ設置されている。つまり資料はまずCameron Library内の、この部署で受入、登録された後、各図書館へ配架される。最上階の5階に位置し、ここへは利用者は立ち入ることはできない。いわゆるオフィスフロアとなっている。

 このBibliographic Service Unit では、アソシエートディレクターを1名置き、秘書1名、以下約50名が図書館の経営管理にあたっている。この経営管理にあたる部署は、さらに以下の4つに大別される。

1. Serial Team
2. Order & Payments Team
3. Monographs & Authorities Team
4. Records & Materials Team

 3番目の、Monographs & Authorities Team では、目録作成、データベース登録を行なっている。アルバータ大学では、12年前よりRLIN (Research Libraries Information Network)というオンラインネットワークに加盟し、 各種の書誌情報をデータベース化している。共同目録作業の形で複数の図書館、分館等が書誌情報を共同で作成、利用しており、日本語資料もここで目録化されている。1〜4を担当する人数は、それぞれ変動しやすく、明確ではないが、Serial Teamに15名前後配置し、他の3チームには10名前後配置している。利用者の手に資料が渡るまで、約50名が Bibliographic Service Unitでオフィスワークに従事しているのである。

5.3 職員教育

 アルバータ大学では、図書館職員を対象に、学内ワークショップを毎月のように開講している。

 開講日時は不定期ではあるが、学内メールで受講者を募っている。特に、インターネットホームページについての講座は希望者が多く、告知から1週間ほどで定員に達することも少なくない。

 インターネットのWEBページデザイン2時間講座は、2000年12月、学内のパソコン教室で行なわれた。参加人数は男性4、女性21で、年齢層は、さまざまであった。学内のあらゆる図書館から参加していた。基礎的な内容であったため、実際にWEBページを作成することはなく、講師がインターネットとは何か、どのようなことがインターネットでできるのか等を、スクリーンを使用して解説した。

 その他にも、学内の図書館職員を対象にしたワークショップは毎月のように開講され、内容はWEBページデザインコースの上級や、書誌記述の知識についてや、論文講座などもある。

 このように、アルバータ大学では図書館職員に対する教育にも力を入れている。

 以上、図書館職員について分析した。図書館職員数の経年変化を見ると、アルバータ大学図書館は、貸出件数、利用者数(学生数)が増加する一方で、図書館を支える専任職員数は年々減少している。増加する貸出件数に伴ない、資料整理を担当するスタッフは不可欠であり、学生アルバイトを増員することで対応する傾向にある。

 業務分担では、図書館職員は副学長を筆頭に、以下ディレクター1名、アソシエートディレクター6名を置き、アソシエートディレクターは、明確に業務が分担されている。それは各図書館ごとの分担の場合もあり、また貸出、書誌、人事などの職務内容による分担の場合もあることが分かった。

 また、資料の受入、データベース登録などのいわゆる配架前の手続きを専門に担当する部署は、Cameron Libraryのオフィスフロアに設けられており、ここではフルタイム、パートタイム合せて約50名の職員が働いている。さらに職員教育については、職員を対象にしたワークショップも毎月のように開講され、積極的に参加する職員が多い。その講習内容はインターネットを中心に、その他さまざまである。

6 経費について

 本章では、大学図書館の経営を、経費の面から見ることにする。

 大学全体の歳入は、おもに学生納付金と公費であり、アルバータ大学では学生数が増加していることから、大学全体の経費は増加している。

 学生数、図書館の資料数は増加している一方、5章でも述べた通り、図書館職員数は減少している。この要因の一つとして、経費の問題があると推測した。

 図書館経費は資料費、人件費で90%以上を占め、その他印刷製本費、雑費に大別できる(fisher1, 2000)。そこでまず、経費全体について述べた後、図書館経費の大半を占める資料費、人件費について、それぞれを分析し、大学図書館経営の方針を明らかにする。

6.1 全体

 アルバータ大学のホームページによると、1999年度の大学総経費は、カナダドルで約639,181,000ドルであり(U of A2, 2000)、日本円に換算すると447億4,267万円である。また、ARLの統計によると、1999年度アルバータ大学における図書館経費の総額は、USドルで14,851,557.969ドルで(fisehr1, 2000)、日本円に換算すると、約16億3,367万円である(1USドル=110円、1カナダドル=70円で計算)。

 以上から、大学経費全体の3.65%が、図書館経費に割り当てられたことになる。日本の大学図書館の場合は、大学総経費に占める図書館経費の比率は3〜4%が現状であることから(松井, 1990, p. 354)、アルバータ大学でも、日本とよく似た経営状況にあると言える。

 日本では、日本私立大学連盟が、私立大学図書館の実態調査を行ない、データを公表している。これによると1998年度の日本の8大学での図書館経費は以下のようになっている。

図表 6-1 1998年度 日本の私立大学図書館経費

   
図書館経費

慶応義塾 59億6,496万7,000円
早稲田 33億7,019万8,000円
中央 22億4,449万1,000円
同志社 18億7,619万5,000円
法政 17億0,796万3,000円
明治 17億0,303万5,000円
専修 10億7,991万9,000円
青山学院 10億6,316万0,000円

(日本私立大学連盟, 1999.2)

 アルバータ大学の1998年度の図書館経費はおよそ17億0,413万6,000円(1USドル=110円で計算)であるので、法政大学、明治大学とほぼ同額の予算で経営していることが分かった。

 次にアルバータ大学における図書館経費の最近30年間の推移を、以下のグラフに表した。

図表 6-2 アルバータ大学 図書館経費の最近30年間の推移(単位 USドル)

(fisher1, 2000により作成)

 上図より、図書館経費は1996年より減少傾向にあることが分かる。

 ARL統計によると、アルバータ大学の学生数は、増加傾向にあり、資料数も確実に増加している(fisher1, 2000)。減少傾向にあるのは5章でも述べたように、職員数である。

 そこで、最近10年間の職員数の変化を以下に表す。

図表 6-3 アルバータ大学図書館職員数の最近10年間の推移

専門職員 パートタイム 学生アルバイト

1990 86 274 36
1991 84 258 35
1992 77 262 34
1993 72 241 37
1994 66 229 38
1995 76 229 35
1996 63 218 45
1997 61 210 45
1998 61 202 53
1999 62 208 58

(fisher1, 2000)

 1996年には、専門職員が76名から63名に、パートタイム職員が229名から218名に減らされ、その後も減っている。この1996年は、前図の図書館経費に減少傾向が見え始めた時期でもある。

 大学全体の学生数、資料数が増加する一方、図書館経費は減少しており、それが職員数に影響を及ぼしていると言える。

 図書館経費は、大まかには、資料費、人件費、印刷製本費、雑費の4つに大別できる。下図は、1999年の図書館経費の内訳を表したものである。

図表 6-4 1999年度 図書館経費内訳(総額:$US14,851,557.969)

種類 購入費 割合

資料費 6,294,930.81 42.39%
人件費 7,496,982.06 50.48%
印刷製本費 97,466.73 0.66%
雑費 962,178.38 6.48%

(fisher1, 2000)

 前で、図書館職員が減少傾向にあることを述べたが、それでもなお図書館職員の給料にあたる人件費が、図書館経費全体の半分以上を占めていることが分かった。そして、資料費と人件費のみで図書館経費全体の90%以上を占めることも分かった。下図は、資料費と人件費の最近10年間の変化を表したものである。

図表 6-5 アルバータ大学図書館資料購入費、人件費の最近10年間の推移(単位 USドル)

(fisher1, 2000により作成)

 最近10年間で、職員数全体の減少という現状から、人件費の減少が顕著である。また、資料費の伸びも、最近2年間は小さくなっているのが現状である。

 以下からは、図書館経費の90%以上を占める、資料費と人件費について分析する。

6.2 資料費

 資料費とは、資料購入費を指し、図書館経費全体の42.39%を占めており、これは日本円でおよそ6億9,244万円である(1USドル=110円で計算)。資料費の内訳は以下の通りである。

図表 6-6 1999年度 資料費内訳(総額:US$6,294,930.8084)      

種類 購入費 割合

図書 1,506,650.00 23.93%
定期刊行物 4,484,221.02 71.24%
他資料 304,058.80 4.82%

(fisher1, 2000)

 ARLに加盟している全111大学の内では、アルバータ大学の資料費合計は53位に位置している(fisher2, 2000)。1986年度の日本の大学図書館と比較すると、日本の大学図書館は、図書57.3%、定期刊行物37.3%、他資料5.4%となっている(松井, 1990, p. 354)ので、アルバータ大学とは、図書と定期刊行物の資料費が逆転している。

 この、定期刊行物購入費が相当数を占める要因には、政府刊行物の影響が大きいものと思われる。大学案内では、735,000ものコレクションを有するとの記述があり(U of A, "calendar", 2000, p. 753)、また、内部観察でも、政府刊行物の保存、管理には力を入れていることが分かる。購入数で見ると、3章でも述べたように、政府刊行物を除いた定期刊行物と、図書の年間購入数はほぼ同数である(fisher1, 2000)。定期刊行物と図書の単価を比べると、明らかに定期刊行物の方が安いはずであるにもかかわらず、購入費は3倍以上の開きがあることから、逐次政府刊行物の購入に相当の経費を割いていると言える。

6.3 人件費

 次に、職員の給料となる人件費について分析する。

 人件費は図書館経費全体の半分以上を占めており、日本円ではおよそ8億2,465万円である(1USドル=110円で計算)。人件費の内訳は、以下の通りである。

図表 6-7 1999年度 人件費内訳(総額:US$7,496,982.0565)

種類 人件費[1] 割合 人数[2] [1]÷[2]
(専門職員を1とした時)

専門職員 2,523,243.73  33.66% 62 1.00
パートタイム職員 4,538,796.93 60.54% 208 0.53
学生アルバイト 434,941.40 5.80% 58 0.18

(fisher1, 2000)

 パートタイムの労働時間数は、専門職員(フルタイム)の週35時間に対して、何%という決め方をする。パートタイムも、学生アルバイトも、その時間数には個人差があるが、それぞれの人件費を人数で割った結果が上図右端の数字である。

 前述のように、アルバータ大学図書館の職員数は、1996年を境に図書館経費の減少に伴って、専門職員、パートタイム職員とも減る一方、学生アルバイトは増加傾向にあるのが特徴である。さらに、パートタイム職員に注目すると、その人数は減ってはきているものの、割合にすると全職員数の60%以上を占め、パートタイムに支払われる給料も、人件費全体の60%以上となっている。ARLに加盟している全111大学と比較すると、合計人数328名は39位に位置し、専門職員のみの人数では66位、学生アルバイトのみの人数では65位であるのに対し、パートタイムのみの人数では、19位となることからも、アルバータ大学図書館では、パートタイム職員の占める割合が大きいと言える(fisher2, 2000)。

 専門職員を減らし、パートタイム、学生アルバイトを多く採用すれば、人件費が低く押さえられる。その傾向は、1996年の図書館経費全体の減少とともに現れている。年々増加する資料数、貸出件数などに対して、減少する図書館経費の影響を、人件費がまともに受けている。

7 まとめ

 以上、アルバータ大学図書館の経営状況を資料、利用、職員、経費に分けて分析した。

 アルバータ大学は規模の大きな大学であるため、付属図書館も大きく、多いに利用されている図書館と言える。貸借は対個人だけではなく、ネットワークの加盟により、相互貸借もさかんであり、利用者証はアルバータ州内の図書館で共通に使用可能である。したがって、アルバータ大学図書館の利用者は、学生、職員、大学スタッフだけにとどまらず、広く学外者にも開放している。

 利用、貸借の方法や、資料の種類が時代とともに多様化していくなかで、減少しているサービスもあることが分かった。レファレンス、予約貸出などがそれに該当する。これはサービス内容の充実、また利用者にとって検索しやすいデータベースの導入の結果として、好意的に評価するものとし、事実、貸出件数や資料数など着実に増加している。

 また図書館の機能が発達し、利用が増加していく一方で、図書館経費は減少傾向にある。その影響は人件費が受けている、という事実が浮き彫りになった。図書館経費の減少という厳しい状況を、人件費を低く押さえることによって対処している。

 総じて、アルバータ大学図書館は、アルバータ州内図書館でも中心的な役割を果たし、今後も十分にその役割を果たしていくであろう。

 論文作成にあたり、ARL統計が非常に役に立った。ARLは、北米111大学図書館について統計を取り、データをインターネットで公開している。可能な限りARLデータを論文中に取り入れたが、予約貸出件数や、所蔵資料数等に欠如しているデータがあった。ARLには今後、この欠如したデータの補足と、北米だけにとどまらず、日本を含め、より広範囲の大学図書館について、統計データの収集、公開を期待したい。

引用文献

日本私立大学連盟(1999). 「大学図書館実態調査平成10年度」. 東京:日本私立大学連盟

日本図書館協会(1990). 『図書館ハンドブック 第5版』. 社団法人 日本図書館協会  東京:社団法人 日本図書館協会 619 p.

University of Alberta(1999 Sep).『Overview of Library Service to Distance Student』. U of A

University of Alberta(2000).『Telecommunications Directory 2000』. U of A

University of Alberta (2000). 『University of Alberta Calendar 2000/2001』. U of A 753 p.

Association of Research Libraries (2000/4). "Data Tables for Academic Institutions". http://fisher.lib.virginia.edu/cgi-local/newarlbin/arllist.pl access date:2000/12/18

Association of Research Libraries (2000/4). "Data Tables for Academic Institutions". http://fisher.lib.virginia.edu/cgi-local/newarlbin/listyear.pl. access date:2000/12/18

University of Alberta (2000/9/7). "Facts about the U of A 2000-2001". http://www.ualberta.ca/ualberta/About/Facts/. access date:2000/12/18

University of Alberta (2000/9/7). "Financial and Statistical Report - Report to the Community 2000". http://www.ualberta.ca/PUBLICFFAIRS/Report/. Access date:2000/12/18




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