中学・高校生の読書導入

学校読書調査から読書傾向を探る

川戸 理恵子

1 論文の目的

 子どもの読書離れが進行しているといわれる昨今、いったいどのようにしたらその進行をとめられるのだろうか。子どもたちは本を読む気がないのだろうか。そんな中で、「すすめられた本を読む」という生徒は、中学生72.6%、高校生65.4%(毎日新聞社, 1995, p.146)というように非常に高い数値を示すデータもある。したがって、決して本を読まないわけではなく、すすめられる等のきっかけがあれば本を読むのだということが伺える。

 この論文は、全国学校図書館協議会と毎日新聞社の共同で行われる学校読書調査において、1995年から1999年までの5年間に実施された、第41回から第45回学校読書調査の「5月1か月間に読んだ本」という項目への回答データをもとに、彼らがどのような本を手にして読んでいるのか、その現状と読書体験を広げるための読書へのきっかけを知るために、中学・高校生の読書傾向を探るものである。

2 学校読書調査概要

2.1 調査方法

 学校読書調査は、全国学校図書館協議会と毎日新聞社の共同で小学生、中学生、高校生を対象に毎年実施される。小・中学校については全国の市区町村を大都市・中都市・小都市・郡部の4つに分けた中から、高校については全日制を9学科に分けた中から、それぞれサンプル校を抽出し、各校の各学年(小学校は4〜6年生のみ)から1学級を選び、調査を行っている。調査時期は、今回データとして使用する1995年から1999年に関しては、各年の6月第1・2週である。調査方法は、小学校は45分、中学・高校は50分、教室で質問紙を配布して記入を求める方式で行われた。1995年から1999年のサンプル数は図2-1の通りである。

図2-1 サンプル数

調査年 小学校 中学校 高 校

1995年 48校 / 4,088名 40校 / 4,088名 43校 / 4,285名
1996年 45校 / 4,249名 39校 / 3,941名 44校 / 4,253名
1997年 44校 / 3,984名 45校 / 4,145名 47校 / 4,362名
1998年 40校 / 3,656名 38校 / 3,803名 39校 / 3,812名
1999年 42校 / 3,896名 38校 / 3,873名 44校 / 4,321名

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校図書館読書調査」) により作成

2.2 調査項目

 学校読書調査の調査項目には、書籍、雑誌、その年定めたテーマについての質問項目が設けられている。書籍に関しては「読んだ本の量」「読んだ本の内容」について、雑誌に関しては「読んだ雑誌の量」「読んだ雑誌の内容」についての質問をし、平均読書量や不読者数などの割合を表示している。

 今回扱う「読んだ本の内容」は、「あなたが、5月1か月間に読んだ本の名まえ(教科書、自習書、マンガ、雑誌やふろくをのぞく)を、おぼえているだけ書いてください」という質問に対しての回答であり、「5月1か月間に読んだ本」として表記されている。この論文では、中学・高校生の「読んだ本の内容」に注目し、中学生の調査結果は高校生に近い状況が見られるため、主に高校生の調査結果を参考とする。

3 各年の傾向

3.1 1995年

 男子を中心として『金田一少年の事件簿』、各学年通じて『遺書』『フォレスト・ガンプ』が読まれ、上位を占めている。男子には『スレイヤーズ!』に人気があり、女子には『時の輝き』などの少女小説が多く読まれている。

図3-1 5月1か月に読んだ本と出度数(1995〜1999年)



高1 高2 高3

<1995> 金田一少年の事件簿
遺書
シャーロック・ホームズ シリーズ
スレイヤーズ!
フォレスト・ガンプ
24
16
9
8
6
遺書
金田一少年の事件簿
スレイヤーズ!
フォレスト・ガンプ
海が聞こえる
24
12
12
11
6
金田一少年の事件簿
遺書
銀河英雄伝説
百星聖戦記
フォレスト・ガンプ
8
7
6
6
5
遺書
時の輝き
フォレスト・ガンプ
アンネの日記
なんて素敵にジャパネスク
19
17
15
10
9
遺書
フォレスト・ガンプ
FBI心理捜査官
ガキの使いやあらへんで!!
マディソン郡の橋
28
15
7
6
6
フォレスト・ガンプ
天使の自立
江戸川乱歩
24人のビリー・ミリガン
遺書
20
18
17
16
14

<1996> 金田一少年の事件簿3
松本
シャーロック・ホームズ シリーズ
読め!
ロードス島戦記
10
10
9
8
7
ロードス島戦記
スレイヤーズ!
「超」年教法
松本
遺書
12
11
9
9
8
遺書
シャーロック・ホームズ シリーズ
松本
三国志
ソフィーの世界
7
6
6
5
5
赤毛のアン シリーズ
読め!
創竜伝
「超」勉強法
フォレスト・ガンプ
9
8
7
7
7
ソフィーの世界
松本
アルジャーノンに花束を
TUGUMI
アンネの日記
10
9
7
7
6
ソフィーの世界
キッチン
ノルウェイの森
N・P
「超」勉強法
7
7
7
6
6

<1997> スレイヤーズ!
三国志
タイム・リープ
シャーロック・ホームズ シリーズ
こころ
9
7
7
6
5
スレイヤーズ!
封神演義
脳内革命
X−ファイル
風の大陸
19
8
6
3
3
スレイヤーズ!
創竜伝
三国志
銀河英雄伝説
タイム・リープ
19
15
6
4
4
創竜伝
ふたり(赤川次郎)
シャーロック・ホームズ シリーズ
銀河英雄伝説
スレイヤーズ!
11
10
6
5
5
スレイヤーズ!
TUGUMI
ふたり(赤川次郎)
あのころ
アムリタ
7
5
5
4
4
ふたり(赤川次郎)
ふたり(唐沢寿明)
銀河英雄伝説
失楽園
創竜伝
11
7
5
5
5

<1998> リング
ぼくらの七日間戦争
らせん
三国志
シャーロック・ホームズ シリーズ
13
7
7
6
5
封神演義
リング
三国志
フォーチュン。クエスト
らせん
8
8
7
6
5
シャーロック・ホームズ シリーズ
封神演義
松本
らせん
リング
6
6
6
5
5
創竜伝
らせん
リング
シャーロック・ホームズ シリーズ
ループ
11
10
10
8
8
ふたり
キッチン
時の輝き
ぼくらの七日間戦争
アムリタ
5
4
4
4
3
リング
らせん
ループ
アムリタ
車輪の下
9
6
4
4
4

<1999> 五体不満足
風の大陸
スレイヤーズ!
本当は恐ろしいグリム童話
シャーロック・ホームズ シリーズ
17
10
9
6
5
封神演義
五体不満足
こころ
坂の上の雲
三国志
10
8
4
4
4
三国志
五体不満足
鉄道員
宮本武蔵
おいしいコーヒーの入れ方
10
5
5
5
4
五体不満足
本当は恐ろしいグリム童話
グリム童話
創竜伝
ソフィーの世界
45
41
8
6
5
五体不満足
本当は恐ろしいグリム童話
TUGUMI
キッチン
放課後の音符
40
33
11
6
6
五体不満足
本当は恐ろしいグリム童話
グリム童話
鉄道員
ノルウェイの森
52
50
10
10
7

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校図書館読書調査」) により作成

3.2 1996年

 特に集中して多く読まれた本はなく、上位にあがっても読んだ人数は少ないが、各学年『松本』『遺書』『読め!』などのタレントの書いた本が目立つ。中学生の各学年で圧倒的に読まれている状況とは異なるものの、『金田一少年の事件簿3』が高校1・2年生男子に読まれている。その他、高校1年生から3年生を通じて『「超」勉強法』があがり、高校3年生女子では上位のほとんどが吉本ばななが占めている。『ソフィーの世界』も多くあげられている。

3.3 1997年

 1996年と同じく、集中して読まれた本はないが、高校生男子では『スレイヤーズ!』が1位にあがっている。その続編の『サイラーグの妖魔』『白銀の魔獣』『ヴェゼンティの闇』もあげられている。続いて、『封神演義』が高校1年生と2年生で、『タイム・リープ』が高校1年生と3年生、『神々の指紋』が各学年であげられた。『金田一少年の事件簿』は全体的に少なくなっている。その他、『失楽園』『創竜伝』などがあげられている。高校生女子は、『ふたり』が各学年で上位にあげられている。その他、『スレイヤーズ!』『銀河英雄伝説』『神々の指紋』があがっている。

3.4 1998年

 1996年、1997年同様に読書の分散化傾向がみられる。そんな中、鈴木光司の『リング』『らせん』『ループ』が各学年とも見られる。男子には『空想科学読本』が読まれている。女子には『アムリタ』『TUGUMI』『キッチン』など、吉本ばななの作品が多く見られる。その他、男子は『ぼくらの七日間戦争』『少年H』『ダディ』『封神演義』、女子は『創竜伝』があげられている。『人間失格』『星の王子さま』などの文芸書もあがっている。

3.5 1999年

 中学生・高校生通して、圧倒的に『五体不満足』が読まれた。各学年の1位と2位を占めている。話題作にあまり左右されない小学生にも多く読まれた。そして、『本当は恐ろしいグリム童話』を中心としてグリム童話ものが多くあがっている。その他、『鉄道員』が高校2年生女子、3年生男女に読まれている。

4 「5月1か月間に読んだ本」とベストセラー

 「5月1か月間に読んだ本」には、ベストセラーとなった本が多く見られる。ここではベストセラーと照らし合わせる際、調査対象の時期が5月のため、同年と前年のベストセラーを比較の対象とする。

図4-1 1994〜1999年のベストセラー(上位10位)


順位/著者名/書名

<1994> 1. 永六輔『大往生』 6. 松本人志『遺書』
2. 『マディソン郡の橋』 7. 青木雄二『ナニワ金融道カネと非常の法律講座』
3. 浜田幸一『日本ダメにした九人の政治家』 8. シドニィ・シェルダン『天使の自立』
4. R・K・レスラー『FBI心理分析官』 9. ユン・チアン『ワイルド・スワン』 上・下
5. 福井県丸岡町編『日本一短い「母」への手紙』 10. アーサー・ブロック『マーフィーの法則』

<1995> 1. ヨースタイン・ゴルデル『ソフィーの世界』 6. さくらももこ『そういうふうにできている』
2. ウィンストン・グルーム『フォレスト・ガンプ』 7. シドニィ・シェルダン『遺産』上・下
3. 松本人志『松本』 8. 柳田邦男『犠牲』
4. 松本人志『遺書』 9. 野口悠紀雄『続「超」整理法』
5. 瀬名秀明『パラサイト・イヴ』 10. 春山茂雄『脳内革命』

<1996> 1. 春山茂雄『脳内革命』 6. 近藤誠『患者よ、がんと闘うな』
2. 野口悠紀雄『続「超」整理法』 7. 石原慎太郎『弟』
3. グラハム・ハンコック『神々の指紋』 8. 立花隆『ぼくはこんな本を読んできた』
4. 猿岩石『猿岩石日記』 9. ヨースタイン・ゴルデル『ソフィーの世界』
5. ダニエル・コールマン『EQ』 10. さくらももこ『あのころ』

<1997> 1. 渡辺淳一『失楽園』 6. フランチェスコ・アルベローニ『他人をほめる人、けなす人』
2. 妹尾河童『少年H』 7. 『ビストロスマップ完全レシピ』
3. 浅田次郎『鉄道員』 8. 藤沢周平『漆の実のみのる国』 上・下
4. 堺屋太一『「次」はこうなる』 9. 宮沢正明撮影『菅野美穂写真集NUDITY』
5. さくらももこ 『ももこの世界あっちこっちめぐり 』 10. 春山茂雄『脳内革命』 1・2

<1998> 1. 五木寛之『大河の一滴』 6. 池田大作『新・人間革命』
2. 大川隆法『幸福の革命』 7. さくらももこ『ももこの話』
3. フランチェスコ・アルベローニ『他人をほめる人、けなす人』 8. 番組スタッフ編『発掘あるある辞典』 1・2
4. リチャード・カールソン『小さいことにくよくよするな!』 9. 京極夏彦『塗仏の宴 宴の始末』
5. 鈴木光司『ループ』 10. 松本人志『松本人志 愛』

<1999> 1. 乙武洋匡『五体不満足』 6. 江藤淳『妻と私』
2. 大野晋『日本語練習帳』 7. 五木寛之『人生の目的』
3. 大川隆法『繁栄の法』 8. 西尾幹二『国民の歴史』
4. 山崎豊『沈まぬ太陽1〜5』 9. 後藤道夫『子どもにウケる科学手品77』
5. 桐生操『本当は恐ろしいグリム童話1・2』 10. 「少年A」の父母『「少年A」この子を生んで・・・』

(出版年鑑編集部 「出版年鑑」) により作成

4.1 1995年

 『遺書』『金田一少年の事件簿』『フォレスト・ガンプ』が目立っている。『遺書』は中学1年生女子を除いた全学年であげられ、かなりの出度数を獲得している。この本は1994年に出版され、150万部を売ってベストセラーとなり、1995年もまたベストセラーの上位となった本である。『金田一少年の事件簿』は人気漫画を小説化したもので、テレビアニメとしても人気があり、相乗効果で多く読まれたようである。『フォレスト・ガンプ』は世界的にヒットした作品であり、高校生の全学年であげられている。

4.2 1996年

 『金田一少年の事件簿』の続編が出され、『金田一少年の事件簿1〜3』が見られるようになり、1995年に引き続きベストセラーの上位50位に入り、中学生男子を中心として読まれよく読まれた。1995年のベストセラーである『松本』『遺書』、1996年にベストセラーとなった『読め!』も若者に人気のタレントの著作として読まれた。1995年と1996年のベストセラーになっている『ソフィーの世界』は高校1年生女子を除き、高校生の各学年であげられている。

4.3 1997年

 高校2年生女子以外、各学年であがった『神々の指紋』は200万部を突破し、1997年のベストセラー3位となった本である。固まって読まれた本はないものの、同年300万部のベストセラーとなった『失楽園』が高校3年生の男女であがっている。

4.4 1998年

 各学年に鈴木光司の『リング』『らせん』『ループ』が各学年であげられているが、『ループ』は1999年のベストセラーであり、『リング』『らせん』の続編でどれも話題となった本である。ミリオンセラーとなった『ダディ』も高校1年生男子にあげられている。

4.4 1999年

 各学年の1位と2位にあげられた『五体不満足』は1998年に出版され、約430万部を売って1999年のベストセラーになった本である。マスコミでもたびたび取り上げられ、話題となった。2000年の調査結果でも依然として読まれている。『本当は恐ろしいグリム童話』は各学年であがっている。この本は、1998年の出版以来、シリーズとして出され、若い女性を中心として読まれながら、幅広い層に読まれ1999年秋には100万部を超えるベストセラーとなった。

5 「5月1か月間に読んだ本」と映画・ドラマ

5.1 映画とドラマとの関係

図5-1-1 出度数の多かった図書と映画の公開時期とドラマの放送時期

調査年 図書名 公開・放送時期

1995年 フォレスト・ガンプ 1995年2月公開
1997年 失楽園
パラサイト・イヴ
ロングバケーション
ふたり
1997年5月公開
1997年2月公開
1996年4〜6月放送
1997年4〜6月放送
1998年 リング
らせん
1998年1月公開
1998年1月公開

 調査結果の中には、映画やドラマのタイトルがたびたび見られる。1995年には『フォレスト・ガンプ』が多くあげられている。

図5-1-2 『フォレスト・ガンプ』出度数(1995年調査結果)

中1 中2 中3 高1 高2 高3

9 9 11 6 15 11 15 5 20

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校図書館読書調査」, 1995) により作成

 映画「フォレスト・ガンプ」は1995年2月に公開された。小説『フォレスト・ガンプ』は1994年に出版され、1995年のベストセラーになっていることからも、映画の影響で読まれたことがわかる。

 1997年には『ふたり』が多く見られる。赤川次郎の『ふたり』は1989年が初版であり、突然の大量出現は、1997年4〜6月のドラマ放送の影響を受けていると考えられる。その他、『パラサイト・イヴ』、『失楽園』、『ロングバケーション』という書名もあげられている。

 1998年にはホラーブームを巻き起こした『リング』『らせん』が多く見られる。『らせん』『ループ』は『リング』の続編であり、シリーズでよく読まれた。中でも、『リング』と『らせん』が多く読まれていることから、1998年1月の同名映画の影響を受けて書名があがったことがわかる。

図5-1-3 『リング』『らせん』『ループ』出度数


中1 中2 中3 高1 高2 高3


リング 4 13 10 8 3 5 9
らせん 6 7 10 5 3 5 6
ループ 3 8 5 4 6

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校図書館読書調査」, 1998) により作成

5.2 読むきっかけと読後の行動からみる影響

図5-2 「本を読むきっかけ」(1994年調査結果)


中学生 高校生

テレビをみてその原作本を読んだ 45.8% 37.4%
映画をみてその原作本を読んだ 31.5% 33.6%
テレビで紹介されていた本を読んだ 24.3% 23.1%
ラジオで紹介されていた本を読んだ 4.2% 4.9%
新聞をみて知った本を読んだ 7.7% 14.0%
雑誌をみて知った本を読んだ 42.8% 44.4%

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校読書調査」, 1994) により作成

 図5−2を見ると、テレビ・映画・雑誌など、身近にある視覚メディアが本を読むきっかけと深く関係していることがわかる。そして、読後の行動として映画化・テレビ化されたものを見る割合は、中学生45.4%、高校生40.5%(毎日新聞社, 1995, p.161)にも及ぶ。このことからも、人気ドラマ・映画は小説化された本はよく読まれることがわかる。

6 「5月1か月間に読んだ本」と作品同士の関係

6.1 関連作品

 1999年の調査結果では女子を中心として、『本当は恐ろしいグリム童話』『童話って本当は残酷』『グリム童話』など、グリム童話関連の本が多く見られる。

図6-1 グリム童話関連図書の各学年との出度数


中1 中2 中3 高1 高2 高3


本当は恐ろしいグリム童話 11 23 12 9 6 41 4 33 4 50
童話って本当は残酷 7
4
グリム童話 12 10 9 8 10

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校読書調査」, 1999) により作成

 これは、『本当は恐ろしいグリム童話』の影響を受けたものだと考えられる。『本当は恐ろしいグリム童話』は1999年のベストセラーである。内容は、「これまでの“定番”だった安心して読める『グリム童話』とは異なる“恐怖物語”」で、その類似本も多く出版され、話題となった。その結果、『本当は恐ろしいグリム童話』を引きがねに、他のグリム童話関連の本が読まれ、それが表れたのであろう。1994年の調査では、「本を読んでいる最中もしくは読後の行動」として「その作品と関係のある他の本を読んだ」という項目を約25%の中・高生が選択している(毎日新聞社, 1995, p.161)。4人に1人というのは高い割合であり、関連作品を読む傾向が強いということを裏付けているといえる。

6.2 同名作品

 異なる作家によって書かれた同名の作品が同年の調査結果に同時に見られることがある。それらの作品は、毎年読まれている図書というわけではなく、片方の作品に影響されてもう片方が読まれたと考えることができる。

図6-2-1 『ふたり』出度数(1997年調査結果)


中1 中2 中3 高1 高2 高3
著 者

赤川次郎


10 11
唐沢寿明


7
(不明) 9 10 20

(全国学校図書館協議会・毎日新聞社 「学校読書調査」, 1997) により作成

 1997年は『ふたり』という書名の本が2冊見られた。赤川次郎の『ふたり』と唐沢寿明の『ふたり』である。赤川の『ふたり』は1989年が初版である。しかし、赤川の『ふたり』は1997年春のドラマの放送によって再び読まれ、その風を受けて、唐沢の同名作品が読まれる形になったと考えられる。なぜなら、唐沢の作品は1996年5月の出版であり、1996年の調査結果に影響してもいいのだが、その影響は見られなかったからである。その他、1998年には、「人間失格」という書名の本が2冊見られ、片方は太宰治の『人間失格』、もう片方は野島伸司の『人間・失格』であった。

6.3 同作家の別作品

 1994年の調査で、「本を読んでいる最中や読後の行動」をたずねる質問に対して、「同じ作家の他の作品を読んだ」という項目を選んだ全体の割合は、中学生全体で51.9%、高校生全体で54.2%という高い数値を示している(毎日新聞社, 1995, p.161)。このことから、読んだ作家のほかの作品を読む傾向があるといえる。

7 「5月1か月間に読んだ本」の常連図書

 調査結果にコンスタントにあげられる本は、「シャーロック・ホームズ」シリーズ、「怪盗ルパン」シリーズ、「江戸川乱歩」シリーズ、「赤毛のアン」シリーズ、『こころ』である。これらは毎年読み続けられている。

8 読書の入り口

 中学・高校生は話題に敏感であるし、その影響を受けやすい。いつも情報を求めて、多方面に興味を張りめぐらせている。特に、彼らの生活の中心になっている、テレビや雑誌からは強い影響を受けている。その状況を上手に使って、読書へ導くことはできないだろうか。

 話題に上がっている本がよく読まれるのであれば、その本がすぐ手にとれるようにしておく必要がある。話題に上がっているものに興味を持って、自分から本を手にとることは読書への前向きなきっかけだと考えるからである。

 それから、彼らが、薦められた本読むことが多いのであれば、積極的に本を薦めていくことが必要である。しかし、その薦められた本が彼らにとって興味の対象ではない場合、「つまらない」ということになり、次の読書へとつながるきっかけとはならない。それを防ぐためには、「彼らが興味のあるもの」を提示して薦めてあげるのが必要である。

 読んだ本が気に入る、もしくはそれに対して何らかの形で興味をもてば、それをきっかけとして、読んだ本に関連するものを読んだり、その作家の別の作品を読んだりして、読書の幅をおのずと広げていくだろうと考えられる。そのようにして次々に本と出逢い、どんどん読書への興味を深くしていければよいと思う。そのきっかけをつくるため、興味と本を関連付けられるように常に彼らの興味の対象を意識している必要があると思う。

引用および参考文献

毎日新聞社(1995). 『読書世論調査1995年版』. 東京: 毎日新聞社, 183p.

毎日新聞社(1996). 『読書世論調査1996年版』. 東京: 毎日新聞社, 160p.

毎日新聞社(1997). 『読書世論調査1997年版』. 東京: 毎日新聞社, 155p.

毎日新聞社(1998). 『読書世論調査1998年版』. 東京: 毎日新聞社, 133p.

毎日新聞社(1999). 『読書世論調査1999年版』. 東京: 毎日新聞社, 151p.

毎日新聞社(2000). 『読書世論調査2000年版』. 東京: 毎日新聞社, 137p.

全国学校図書館協議会(1995). 「第41回読書調査報告」. 『学校図書館 11月号』. 東京: 全国学校図書館協議会, pp.15〜36

全国学校図書館協議会(1996). 「第42回読書調査報告」. 『学校図書館 11月号』. 東京: 全国学校図書館協議会, pp.15〜43

全国学校図書館協議会(1997). 「第43回読書調査報告」. 『学校図書館 11月号』. 東京: 全国学校図書館協議会, pp.15〜36

全国学校図書館協議会(1998). 「第44回読書調査報告」. 『学校図書館 11月号』. 東京: 全国学校図書館協議会, pp.15〜34

全国学校図書館協議会(1999). 「第45回読書調査報告」. 『学校図書館 11月号』. 東京: 全国学校図書館協議会, pp.15〜32

全国学校図書館協議会(1990). 『学校図書館白書2』. 東京: 全国学校図書館協議会, 223p.

全国学校図書館協議会(1998). 『データに見る今日の学校図書館‐学校図書館白書3-』. 東京: 全国学校図書館協議会, 111p.

出版年鑑編集部(1995). 『出版年鑑 1995 資料・名簿編』. 東京: 出版ニュース社, 566p.

出版年鑑編集部(1996). 『出版年鑑 1996 資料・名簿編』. 東京: 出版ニュース社, 561p.

出版年鑑編集部(1997). 『出版年鑑 1997 資料・名簿編』. 東京: 出版ニュース社, 522p.

出版年鑑編集部(1998). 『出版年鑑 1998 資料・名簿編』. 東京: 出版ニュース社, 543p.

出版年鑑編集部(1999). 『出版年鑑 1999 資料・名簿編』. 東京: 出版ニュース社, 547p.

出版年鑑編集部(2000). 『出版年鑑 2000 資料・名簿編』. 東京: 出版ニュース社, 526p.




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