情報資料と費用負担:

ドイツの公共図書館の場合

横室 奈緒美

1 ドイツの公共図書館

1.1 研究の動機

 私は昨年、卒業研究のためドイツに3ヶ月滞在した。そのときに公共図書館が有料制であることを知り、大変興味を覚えた。現在、日本の図書館における課金制度については、主にパッケージ系電子メディアについてと、著作権の観点について盛んな議論がなされている。

 国が違うと国民性も制度も異なるが、ドイツという違う視点から公共図書館における費用負担について明らかにしようと思う。以上のことから本論文ではドイツの公共図書館における課金制について事例研究とする。

1.2 ドイツの図書館における政治構造

 第二次世界大戦が終わり、勝利した西欧列強とドイツの政治家がドイツの西側地区に新たな政治構造を作り上げ、地方分権的な連邦国家を誕生させたとき、彼らは明らかにある意図をもっていた。その意図とは、権力を出来る限り分散させ、拡散させることによって、強力で中央集権的な国家の再興を防ぎ、対戦中のような領土の拡大を不可能にすることであった。

 こうして今日、ドイツは独立性の強い16の州が連邦政府としてつながれた形態となっている。この形態に内在するのが、いわゆる「助成の原則」という考え方である。これは簡単に言えば、政治システムの各機関はその力に見合うだけ独立しているが、独立そのものは連邦政府に助成されながら守られていることを表している。しばしば、助成の原則と連邦システムは何の関連性ももたないと言われる。しかし、この関連性は否定されるものではなく、特に文化部門ではっきりと表れている。文化部門では独立性の強さがさまざまな度合いで示されており、権限は下級のレベルに委譲され、州へと移されている。公共図書館に関しては最小の行政単位である市町村へと直に移される。図書館は連邦政府でなく州政府が責任を負うことになっている。しかし、大多数の図書館については小規模な市町村行政府が責任を担っている。全ての村や町は、公共図書館を設置するか否かを完全に自由に決定することが出来る。そのため、公的資金の配分の段階になると、図書館サービスは低い順位しか与えられていないのが現状である。

1.3 公共図書館における時代背景

 公共図書館は誰でも自由に利用できる機関として存在している。ドイツ連邦共和国は90年代に至るまで、わずかな例外を除いて、利用または貸し出しのための費用徴収はなかった。80年代初頭の経済危機時に、登録時、または年間の会費の形で導入された料金は、それも大抵はサービスのごく一部で、またすべての利用者集団に該当するものではなかったが、利用者減少が確認できたために、しばしば撤回された。しかし、90年代のさらに深刻な構造危機と経済危機により、地方自治体は改めて納付金や料金を通じて、公共図書館予算の赤字を軽減すべく余儀なくされている。こうして多数の大都市、中都市はドイツ図書館連盟(Der Deutsche Bibliothekverbande)、文化省(der Kultusministerien)、そして州専門局(der Staatlichen Fachstellen)の反対にもかかわらず、年間の図書館利用料を通じて、市の予算財源を改善するという決定をした。

 公共のサービスの領域においても、費用と利用の関係を考慮することがいかに必要であっても、利用料の導入は非常に問題がある。料金、または代価が(その額はともかくとして)図書館利用の望ましくない後退にむすびつくので、ドイツ図書館連盟や他の専門委員会は、依然として、料金や、対価については無料利用を要求している。(Engelbert, 1999, p.139から訳)

 同様に他の文献によっても指摘されている。

公共図書館では多くの場合、サービスは無料で提供されるが、特に1994年以降においてはさまざまな課金制度を行うことが増えている。この傾向は、利用者および潜在的な利用者に経費の負担を求めていることを明らかに示している。これまでのところ、統一的な利用料金もしくは貸し出し料金を課す働きは見られないが、近い将来において、経済状況の悪化にともない、等級付けされた課金制度が導入されるものと思われる。(ピーター,1999,p.7)

 上記から課金制を明確に現在の自治体が表し始めたのは1990年代からだといえる。また図書館の在り方を示している「Bibliotheken’93」では公共図書館の課金制については図書館における特別展示や延滞料金以外は課金してはいけないと明確に書かれている。しかし図書館運営的、地方自治体の財政的にはやむを得ないのだと見方ができる。

1.4 調査方法・調査対象

 ドイツの公共図書館にメールをおくり、返答されたものを集計、分析している。

 なお送ったのはインターネット検索エンジンGoogleにおいてキーワード「ドイツ」「公共図書館」で検索を行った。カテゴリー「 World > Deutsch > Regional > Deutschland > Bildumg > Bibliotheken > Allgemein offentliche bibliotheken (一般的な公共図書館群)」から検出した。これにより、まず図書館のホームページが作成されていること、メールアドレスが記載されていることが条件となるためドイツの公共図書館全てが反映されているとは言えないが逆に、ホームページ作成能力がある図書館は比較的図書館の規模が大きいことが予想される。

 平成13年5月1日現在、キーワードがヒットした44館のうちで返答があった26館のデータをもとに論じている.注記としてバイエルンの州立図書館、ベルリンのプロイセン州立図書館は名前については公共図書館であるが、国立図書館的機能を果たしているため省いた。同様に大学図書館と合併している図書館、日本における県立図書館的役割を果たしている各州のLandesbibliothek、大学と州立図書館が共存しているStaats-und Universitatsbibliothek等も省いた。

1.5 州ごとの分布

 調査方法に記述したカテゴリーよりメール送付が可能であった図書館数と返答があった図書館の数を州ごとに集計したのが1-5表である。

 GoogleにおけるカテゴリーWorld > Deutsch > Regional > Deutschland > Bildung > Bibliotheken>Allgemein offentliche Bibliotheken にHPを開設している図書館の数を比べると旧東ドイツの州であるMecklenburg-Vorpommern、Brandenburg、Thuringen、 Sachsenは各州においてそれぞれ1,2館しかHPを開設、Googleにリンクしていない。旧西ドイツであった州と比較すると図書館の数が少ないという印象をうけた。それにも関係するのであろう、今回のアンケート調査によって応答があったのは、26館中3館、(旧東ドイツに限定しては8件中3件)の返答である。やはりこんなところにも10年経った今も東西ドイツの名残が残っているのではないかと思われる。

図表 1-5 州ごとの分布

州(アルファベット順) 送付数 返答数

Baden-Wurttemberg 11 6
Bayern 4 3
Berlin 3 2
Brandenburg 1 0
Bremen 1 0
Hessen 1 1
Mecklenburg-Vorpommern 1 1
Niedersachsen 3 3
Nordrein−Westfalen 14 8
Saarland 1 1
Sachsen 2 1
Schleswig−Holstein 1 0
Thuringen 1 0

 またメールを送信してから2日以内に全返答の約80%から応答があった。私は日本の図書館に質問票をメールで送ったことがないので日本と比較しては何ともいえないが、早い方であるといえる。

2. 登録料について

 本章ではドイツの公共図書館について登録料金徴収における料金体系を明らかにすることを目的とする。図表2は登録料の料金、登録した際の有効期間について質問票に応答のあったものを州ごとにまとめ、図にしたものである。料金については1DM(ドイツマルク)=約54円(2001年6月19日現在)とする。注意書きとして主に返答から登録料の項目について書ききれないこと(例.児童、学生についての料金。登録料金における有効期間についてカテゴリーが複数ある場合など)を順に並べた。登録料については州においても、その中の各図書館においてもばらつきが相当あり、地方分権国家であるドイツらしさを窺わせる。これにより図書館の運営を各図書館の独自性に任せているのがわかる。登録料金の有効期限については1年間ということで各館共通していることが分かり、それがほぼ共通の単位として扱われているのがわかる。

 その他に特筆すべきことは、登録料金を徴収している図書館において児童、学生に対し割引、または無料といった処置を施していることである。ドイツは教育制度において基本的に学ぶものからお金を徴収すべきでないとの姿勢を保ってきた。(近年は財政難によって大学教育においては徴収されつつあるが。)その概念が根強く残り、この登録料の制度についても少なからぬ関係があると思われる。日本において図書館利用においては無料の原則が根底にあるため上記のようには登録料金を徴収することはこれから起こりえないであろう。

図表2 登録料についてのアンケート結果


登録料(DM) 有効期間

Baden-Wurttemberg
Stadtbibliothek Ulm 24 1年間 *1
Stadtbucherei Uberlingen 0 無し *2
Stadtbucherei Konstanz 0 無し *3
Stadtbibliothek Freiberg 0 無し
Stadtbibliothek Ditzingen 0 無し
Stadtbucherei Heilbronn 20 1年間 *4
Bayern
Stadtbucherei Ingolstadt 0 無し *5
Stadtbibliothek Nurnberg 0 無し *6
Stadtbucherei Traunstein 20 1年間 *7
Berlin
Stadtbibliothek Berlin-Mitte 20 1年間 *8
Hessen
Stadtbucherei Russelsheim 12 1年間 *9
Mecklenburg-Vorpommern
Stadtbibliothek Greifswald 0 無し *10
Niedersachsen
Stadtbibliothek Gottingen 32 1年間 *11
Stadtbibliothek Osnabruck 38 1年間 *12
Stadtbibliothek Oldenburg 5 無し *13
Nordrein Westfalen
Stadtbibliothek Koln 40 1年間 *14
Stadtbucherei Bochum 30 1年間 *15
Stadtbibliothek Paderborn 0 1年間
Offentliche bibliothek der Stadt Aachen 5 無し *16
Stadtbibliothek Bonn 30 1年間 *17
Stadtbibliothek Herford 20 1年間 *18
Stadtbucherei Munster 25 1年間 *19
Stadtbucherei Bergneustadt 10 1年間 *20
Saarland
Stadtbibliothek Saarbrucken 30 1年間 *21
Sachsen
Stadtische Bibliotheken Dresden 20 1年間 *22

* 1 一般のみ有料。1日2DM
* 2 カード再発行につき5DM
* 3 メディアを利用する場合は年間学生、若者15DM、成人20DM。児童は無料。
* 4 18才未満、学生は無料
* 5 メディアを利用する場合は年間20DM。1ヶ月5DM。児童は無料。本だけなら無料
* 6 再発行は16歳以上15DM、16歳以下5DM
* 7 児童、生徒は15DM
* 8 学生,無職者10DM.児童は無料。非住居者は1ヶ月5DM
* 9 18歳以上有料
*10 ビデオ、DVD利用の時のみ一般年間15DM.学生10DM.16歳以下無料。
*11 2年目からは15DM.子供、青少年は無料
*12 半年22DM.3ヶ月13DM.1ヶ月5DM.18歳以下無
*13 16歳以上に適応。15歳以下は2Dv
*14 1日2DM
*15 児童、学生、無職者、兵士、障害者、15DM
*16 生活保護者と18歳未満は無料
*17 メディアの貸し出しには別に一冊1DM
*18 1ヶ月5DM.居住区の児童、学生、は無料。非居住区の児童,生徒は一般と同額。
*19 初回登録料4DM必要.再交付は一般10DM.児童、青少年は6DM必要
*20 児童、生徒は5DM.家族は15DM
*21 学生、無職者は20DM。12歳以下は無料.再発行は15DM
*22 14歳以下無料。14−17歳、10DM

3 インターネット利用について

3.1 インターネット料金について(質問票から)

 図表3-1はインターネット利用についての項目をピックアップし、表化したものである。インターネットについては、すべての返答のあった図書館から図書館利用者に利用可能であるとの答えが返ってきたので、表の項目としては省略した。料金設定については各館とも答え方にばらつきがあり(10分1DM等)、1時間ごとの利用料に換算して記述した。例をあげるとStadtbibliothek Bonnのように1分0.2DMと料金が設定されていたし、Stadtbibliothek Paderbornでは最初から1時間2DMという料金設定であった。

 26館中15館がインターネット利用について料金を徴収していた。商用データベースを提供しているところは3館であるが、いずれもインターネット利用料は無料である。登録料と比較すると、それぞれ一般の利用者は、20DM以上年間登録料(図書館利用料)として支払っていることがわかった。それに加え、インターネット利用が無料の7館の図書館の年間登録料を比較すると大多数が比較的高額な費用を支払っていることがわかる。以上のことからわかるように登録料とインターネットの利用料は反比例の関係にあるのではないだろうか。

 感想としては商用データベースが使用可能と返答のあった図書館にどのような商用データベースが提供されているのかが追求できなかったのが残念である。

3.2 インターネット利用について(日本の場合)

 日本では公共図書館におけるインターネット利用についての議論が数多くされている。そこからもわかるように現在の論点としてはネットワーク系電子資料における費用負担について論じられている。

公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用についてはいかなる対価をも徴収してはならないと法定されているが、今後公立図書館が高度情報化時代に応じた多様かつ高度な負担の在り方の観点から、サービスを受けるものに一定の負担を求めることが必要となる可能性も予想される。このようなことから、地方公共団体の自主的な判断の下、対価不徴収の原則を維持しつつ、一定の場合に受益者の負担を求めることについて、その適否を検討する場合がある。
(報告、1998.p1)

との報告書が主な発端になったものと考える。それを受けて糸賀氏や前川氏も論文を提出している。そこから導き出される結果として利用者に費用徴収を求めることができるのかという問題はあるにせよ公共図書館内インターネットの提供は、普及していくと考えられる。

表3-1 インターネット料金について


1時間あたりの料金(DM) 商用データベース

Baden-Wurttemberg
Stadtbibliothek Ulm 無料 可能(有料)
Stadtbucherei Uberlingen 6 記述無し
Stadtbucherei Konstanz 5 不可能
Stadtbibliothek Freiberg 4 不可能
Stadtbibliothek Ditzingen 6 不可能
Stadtbucherei Heilbronn 無料 不可能(検討中)
Bayern
Stadtbucherei Ingolstadt 1 不可能
Stadtbibliothek Nurnberg 無料 不可能 *1
Stadtbucherei Traunstein 4 不可能
Berlin
Stadtbibliothek Berlin-Mitte 6 不可能(検討中) *2
Hessen
Stadtbucherei Russelsheim 6 不可能
Mecklenburg-Vorpommern
Stadtbibliothek Greifswald 無料 不可能
Niedersachsen
Stadtbibliothek Gottingen 無料 不可能 *3
Stadtbibliothek Osnabruck 5 記述無し
Stadtbibliothek Oldenburg 有料だが金額不明 不可能
Nordrein Westfalen
Stadtbibliothek Koln 会員登録してあれば無料 可能(無料)
Stadtbucherei Bochum 無料 可能(無料)
Stadtbibliothek Paderborn 2 不可能
Offentliche bibliothek der Stadt Aachen 3 不可能
Stadtbibliothek Bonn 12 記述無し
Stadtbibliothek Herford 6 不可能
Stadtbucherei Munster 2 不可能
Stadtbucherei Bergneustadt 無料 不可能
Saarland
Stadtbibliothek Saarbrucken 6 不可能 *4
Sachsen
Stadtische Bibliotheken Dresden 無料 不可能

*1児童は無料。有料DBはGBI - German Business Informationを現在検討中とのこと
*2利用者1人につき1時間まで。プリントアウト代は別
*3利用者1人につき1時間まで。非居住者は15分で1DM
*4その他、コンピューターワークルーム利用のために1時間2DM、1日10DM,1週間40DM必要

4 複写について

4.1 複写について(質問票から)

 表4は応答のあった質問票からコピーについて質問した項目をピックアップし、州別にまとめたものである。文献複写サービスについては私の質問がおそらく日本における文献複写サービスと別なことを質問票に書き表してしまったため、本来と別の意味に捉えられてしまったのではないかと思う。全体としてはやはり0.1DMから0.3DMであり、ドイツの物価を考えると日本の1.5倍から2倍の料金であると考えられる。対象となる母数が少ないが、Baden-Wurttemberg州と、 Niedersachsen州を比較する。登録料と比較してみると一概には言えないが、登録料金を取っている図書館よりも登録料金をとっていない図書館の方が比較的コピー料金が安いということがいえる。

 また質問票により以下のように記載したため誤解が生じたのではないかと危惧する。

 When you (library staff) reproduce something for a user by photocopying, microfilming or anything, how much does it cost? Could you give prices of typical cases such as photocopying a book (price per sheet) or microfilming old documents?

 図書館によるフォトコピー、マイクロフィルムのコピーを独自に行っているかということであり、貴重本の複製を行えるかということである。

 日本における文献複写サービスとは貴重本、一般に流通している本に関係なく、自館にない文献を他図書館から文献複写によって提供してもらうというサービスである。したがって両者に相違があったということは間違いなく、表4から見ても行っていないという返答が多いのは納得がいく。だがStadsbibliothek Ulmについては料金が違うことからほかの図書館にも同じ意味で取ってもらえた場合もある。またStadtbibliothek Nurnbergでは相互貸借の一環の中に文献複写サービスが含まれていた。ここにおいてはページ数によって料金に変動があったことをあげておく。

図表4 コピー、文献複写についてのアンケート結果


コピー(DM) 文献複写サービス(DM)

Baden-Wurttemberg
Stadtbibliothek Ulm 0.2 0.5
Stadtbucherei Uberlingen 0.3 0.3
Stadtbucherei Konstanz 0.1 行っていない
Stadtbibliothek Freiberg 0.3 行っていない
Stadtbibliothek Ditzingen 0.3 行っていない
Stadtbucherei Heilbronn 0.2 0.2
Bayern
Stadtbucherei Ingolstadt 0.1 行っていない
Stadtbibliothek Nurnberg 0.2 0.4
Stadtbucherei Traunstein 0.2 行っていない
Berlin
Stadtbibliothek Berlin-Mitte 0.3 行っていない
Hessen
Stadtbucherei Russelsheim 0.2 行っていない
Mecklenburg-Vorpommern
Stadtbibliothek Greifswald 0.15 0.15
Niedersachsen
Stadtbibliothek Gottingen 0.2 行っていない
Stadtbibliothek Osnabruck 記述無し 記述無し
Stadtbibliothek Oldenburg 0.1 行っていない
Nordrein Westfalen
Stadtbibliothek Koln 0.1 行っていない
Stadtbucherei Bochum 0.1 記述無し
Stadtbibliothek Paderborn 0.1 行っていない
Offentliche bibliothek der Stadt Aachen 0.2 行っていない
Stadtbibliothek Bonn 記述無し 行っていない
Stadtbibliothek Herford 0.1 行っていない
Stadtbucherei Munster 0.1 行っていない
Stadtbucherei Bergneustadt 0.3 行っていない
Saarland
Stadtbibliothek Saarbrucken 0.1 行っていない
Sachsen
Stadtische Bibliotheken Dresden 0.15 行っていない

4.2 複写について(ドイツ著作権法から)

 次にドイツ著作権法から複製における料金徴収について論じる。

著作権法 第五十三条 私的その他自己使用のための複製
1 私的使用のために、著作物の個々の複製物を作成することは許される。複製の権能を有するものは、複製物を他人に作成させることもできる。ただし、著作物を録画ないし録音物に写調すること及び美術の著作物を複製することについては、それが無償で行われるときに限る
2 次の目的のために、著作物の個々の複製物を作成し又は作成させることは許される。
一 自らの学術的使用のため。ただし、複製がこの目的上必要な場合であり、かつその範囲に限る。
二 自らの記録に収録するため。ただし、複製がこの目的上必要であり、自らの作品が複製の見本として利用される場合であり、かつ、その範囲に限る。
三 時事問題に関する自らの報告のため。ただし、放送された著作物に関する場合。
四 その他の自己使用のため。ただし発行された著作物のわずかな部分又は新聞ないし雑誌において発表された個々の論悦に関する場合。少なくとも二年は絶版となつている著作物に関する場合。
3 次の一に該る場合には、自己使用のために、印刷著作物のわずかな部分又は新聞ないし雑誌において発表された個々の論悦の複製物を作成し又は作成させることは、その複製がこの目的上必要であり、かつ、その範囲に限り、許される。
一 学校の授業、専門教育・再教育のための非営利の施設、並びに、職業教育のための施設において、ひとクラスに必要な数
二 国の試験及び学校、大学、専門教育・再教育のための非営利の施設並びに職業教育における試験のために必要な数
4 次のものの複製は、手書きによる場合の他は、つねに権利者の同意を得た場合に限り許され、または第二項第二号の要件を充たし、もしくは、少なくとも二年は絶版となつている著作物に関しては、自己使用のために、許される。
音楽の著作物の図版による表示
図書又は雑誌、ただし、実質上全部の複製物である場合。
以下略

著作権法 第五十四条 報酬義務
2 著作権の性質上、第五十三条第一項から第三項までにより、作品の複写により、又は、類似の効果を有する方法により、複製されることが予測できる場合は、著作物の著作者は、かような複製の用に供される機器の製造者に対して、機器の販売その他の取引によつて生じた、かような複製をなす可能性につき相当たる報酬の支払いを目的とした請求権を有する。製造者とともに機器をこの法律の施行地域内に営利を目的として輸入もしくは再輸入するものは、連帯債務者として責を負う。この種の機器が、学校、大学並びに職業教育その他専門教育・再教育の施設(教育施設)、研究施設、公の図書館において、または複写物作成用の機器を有償にて備える施設において、操作される場合は、著作者は、機器の操作者に対しても、相当なる報酬の支払いを目的とした請求権を有する。操作者が一括して支払う義務を負う報酬の額は、諸事情から、特に設置の場所及び通常の使用から推定された機器利用の方法及び範囲に従つて算定される。

<別表> 著作権法 第五十四条第四条第四項に関して
報酬率
2 著作権法 第五十四条第二項による報酬
2 第五十四条第二項二文によるすべての権利者の報酬は複写のDIN-A4 1ページにつき次の額とする。

もつぱら学校の使用に供せられ、ラント当局によつて教科書と認められた本から製作される複写物にあつては、0.05DM

その他のすべての複写物    0.02DM
(斎藤, 1995, p. 29-32,p.82-83)

 以上からわかるように著作者への報酬義務としてドイツ著作権法では言及されている。したがってコピー機器による著作者に支払われる報酬が発生してくるため、図書館における複写であっても有料であることがわかる。料金の詳細については、第五十四条第四項における「特約」が図書館に定められているかどうかはわからなかった。だが図書館における館内複写の方法を考慮すると、過去に訪れたことのあるいくつかの公共図書館はコピー機が図書館員の目につくところにはなかったため、「特約」が定められているのであろうかと考える。また日本の著作権法第31条(図書館等における複製)のように図書館内における複写について詳細に規定されていなかったのも意外であった。利用者に対しては著作権によって具体的に複写可能な範囲を特定されておらず、比較的利用しやすいように感じた。著作者への報酬という観点から図書館における著作権を考えたことが今までなかったので今後の課題となる。

5 相互貸借について

 結果から無料から4DMまでの料金が徴収されていることがわかった。それぞれの州においても各図書館によってまちまちで法則性などはみつけられなかった。だがその際手数料としているわけではなく、郵送費も込みでの料金としていた。また図書館で相互貸借を行っていない公共図書館は基本的にその領域内に設置されている専門図書館が行っているということであった。登録料との関連性も特に見受けられなかった。日本の公共図書館がある一定地域内での相互貸借を重点的に行っているのに対し、ドイツでは国内全てを網羅して相互貸借に従事していると感じた。

ドイツには、よく組織され高度に発展した図書館間相互貸借システムが国家規模で存在する。このシステムは、1993年に起草された施行規則に定められ、交換をその基本原則としている。全参加館は資料を借り出すことを請求するだけでなく、それと引き換えに、所蔵資料の記入を総合目録に登録し、資料の貸し出しも行わなければならない。よく知られているが、図書館間相互貸借システムをとおして請求された資料の配送には、一般的に長い時間がかかる。電子的な文献提供方法が利用される場合は例外として、請求から貸し出しにかかる平均的な配送時間は19日である。(ピーター,1999,p.22)

6 延滞料金について

図表 6 延滞料金について


延滞料金

Baden-Wurttemberg
Stadtbibliothek Ulm (延滞料金は取るが金額不明)
Stadtbucherei Uberlingen 1週間目は1DM/Medium
2週間目は2DM/Medium+督促状5DM。
3週間目は4DM/Medium+督促状2通分10DM
Stadtbucherei Konstanz 1DM/Medium+督促状1.1DM。
3回督促状を受け取ったら7DM
Stadtbibliothek Freiberg 0
Stadtbibliothek Ditzingen 0
Stadtbucherei Heilbronn 0
Bayern
Stadtbucherei Ingolstadt 週ごとに1.5DM/Medium
Stadtbibliothek Nurnberg 16歳以上1週間3DM。以下は0.5DM
Stadtbucherei Traunstein 0
Berlin
Stadtbibliothek Berlin-Mitte 1日0.5DM/Book
Hessen
Stadtbucherei Russelsheim 0
Mecklenburg-Vorpommern
Stadtbibliothek Greifswald 1週間1冊2.5DM
Niedersachsen
Stadtbibliothek Gottingen 0
Stadtbibliothek Osnabruck
Stadtbibliothek Oldenburg 本、新聞、ゲームは無料。音楽CDは4週間で0,5DM。
CD-ROM4週間で4DM。ビデオ3日2DM。
Nordrein Westfalen
Stadtbibliothek Koln CD,CD-ROM,ビデオ、DVDは2DM。
Stadtbucherei Bochum 0
Stadtbibliothek Paderborn 回答無し
Offentliche bibliothek der Stadt Aachen CD,CD-ROM,ビデオ、DVDは2DM。
Stadtbibliothek Bonn
Stadtbibliothek Herford 1冊につき2DM.と1週間で2DMの追加
Stadtbucherei Munster 2DM/Medieum。
Stadtbucherei Bergneustadt 督促状1回につきDM2/book
Saarland
Stadtbibliothek Saarbrucken 1日1冊0.5DM。12歳以下は0.2DM。
20日過ぎると10DM+督促状15DM
Sachsen
Stadtische Bibliotheken Dresden (延滞料金は取るが金額不明)

延滞料金について料金設定、対象はまちまちで一つとして同じ基準をとっている図書館はなかった。登録料が無料であれば延滞料金も無料であるのかと私は考えていたが実際は無料であった7館中2館だけが無料であった。従って必ずしも登録料とが反映しているわけではない。また全ての資料について延滞料金が発生するのではなく、Medium(CD、ビデオなどの視聴覚資料とCD-ROM、DVDなどの電子パッケージ資料)のみに延滞料金を課している図書館が多く見られた。ドイツの図書館方針とも言える「Bibliotheken’93」でも料金徴収について特別展示と延滞料金についてはやむを得ないと認めている。(Bundesvereinigung Deutscher Bibliotheksverbande,1994,p8から訳)この項目については各州の地方自治体も図書館連盟も同じ意見にあると考えられる。

7 まとめ

 以上、登録料、インターネット利用、複写、相互貸借、貸し出し資料の延滞料金について調査した。登録料は一般的に徴収、非徴収については様々である。しかし徴収のめどとして1年間としている図書館が多数見受けた。また児童や学生に対しては割引、無料とするなどの処置がなされていた。インターネット利用における利用料金の徴収については登録料と反比例の関係にあるのではないだろうかと思われた。情報資料をできるだけ多くの人へ提供しようとの姿勢が見受けられた。また全館、インターネットの利用を提供していることは特筆すべきことである。

 ドイツの公共図書館は一般的な社会経済過程から切り離せないので、経済不況の影響を直接うけやすい。この点で費用負担についてドイツの公共図書館と地方自治体とは切っても切り離せるものではなく、運命共同体と言ってもよい。

特に問題となるものをあげると

広い範囲をカバーするサービス提供は今日までまだ実現されていない。

財政支出の差が大きい。

ドイツ連邦共和国の北と南では,発展段階の違いが大きい。70年代まで、北部、ことにノルドライン・ヴェストファーレン、ハンブルク、ブレーメンが優位にたっていたが、そのうち北と南の落差の意味がだんだん変わって、上記諸州における発展が、ところによっては停滞状態に入り、あるいは、後退しているにたいして、南、特にバーデン・ヴェルベルクとバイエルンは遅れを取り返した、ということを意味するようになってきた。(タウアー,1992,p195)

 従って州政府によって州の財政事情に合わせた図書館運営が臨機応変に可能であるが、そのかわり各図書館の利用者に対して費用負担の格差が激しいことがわかった。

謝辞

質問に返答くださいましたドイツの公共図書館員の皆様に感謝します。

また質問票について添削、助言くださいました藤田玲子先生に感謝します。

引用文献

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訳斉藤 博(1995).『外国著作権法令集(16)−ドイツ編−』東京: 著作権情報センター,106p.

生涯学習審議会社会教育分科審議会計画部会図書館専門委員会(1998)

『図書館の情報化の必要性とその推進方策について−地域の情報化推進拠点として−(報告)』

タウアー,ヴォルフガング.フォドゼク,ペーター(共著).河合弘志(訳)(1992)『ドイツの公共図書館運動−興隆・挫折・再起の歴史』.東京.日本図書館協会.240p.

参考文献・参考URL

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