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基礎情報学/ネオ・サイバネティクスの研究,論考発表サイト
 

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基礎情報学

情報学というと、誰でもIT(情報技術)のことを思い浮かべます。ITによってデジタルな情報を効率的に扱うことができるのですが、情報学は決してそれだけではない。僕の研究室のテーマである「基礎情報学」は、デジタルだけでなく、アナログをふくめたあらゆる情報を、その根っこから探っていこうというものです。IT社会をベースから考えようというわけですね。


情報とは、物質、エネルギーにつぐ第三の存在で、その本質は「意味作用」にあります。意味を理解するのは生物なので、情報が生まれたのは、生物が誕生した約35~38億年前。つまり、宇宙が約130億年前にできたとすれば、情報は100億年近くのあいだ存在しなかったということになります。僕は、情報とは「それによって生物がパターンをつくりだすパターン」であると定義しています。つまりまず、情報とは物質やエネルギーとは違ってパターン、形だということ。それから、自己言及的な性格を持っているということです。グレゴリー・ベイトソンの「差異を生み出す差異」という情報の定義がありますが、これにちょっと似ていますね。実はパターンの裏返しが差異ですから、パターンと差異とはある意味で一致する。ただ、ベイトソンはあまり生物と機械を区別しなかったのですね。


コンピュータのなかの情報も、人間が全部いなくなってしまったら「意味」がなくなってしまうでしょう? かけがえのない、生きている存在との関わりから、情報を考えていく。これがわが研究室の方針です。その延長上に、人間のためのIT社会もあるわけです。


20世紀の文系の知は、主に「言語」を中心に展開してきました。言語に注目することで、人間や社会などの対象を「実体」ではなく「関係」としてフレキシブルにとらえる視点が生まれたのです。一方、理系の分野では、分子生物学とか動物行動学などから、人間を生態系の一部ととらえる視点が出てきました。分離しているように見えるこの二つの流れを、情報を中心として何とか交錯融合させたいものですね。


生物が生きているのはそれぞれの環境世界ですが、僕たちホモ・サピエンスはサイバースペースのような不思議なものを次々に生み出しつつあります。21世紀に文と理の架け橋をするのが情報学であり、そのベースこそが基礎情報学なのです。


西垣通  2002/11/11