サイバネティクスはその成り立ち以来、様々な事象を循環的なシステムという概念で捉える、学際的な取り組みとしてあった。『システムとサイバネティクスの思想』(西田洋平編,コロナ社,2026年2月刊行予定) は、その学問的潮流の背景から歴史的展開、そしてネオ・サイバネティクス(セカンドオーダー・サイバネティクス)と呼ばれる認識論的転回を経て、現在に至るまでの歩みを様々な角度から紹介している。 本公開研究会では、その中から特に「デザイン」に関わるテーマで書かれた2つの章の内容をもとに、「学際的実践の基礎理論」としてのサイバネティクスの意義について考える。それは、自分たちの学問的な営み自体を理論と実践の循環システムとして捉えた、セカンドオーダー・サイバネティクスの歴史的な原点とも重なる。また、そのような「学際的実践の基礎理論」としてのサイバネティクスすなわちシステム論への関心は、いわゆる記号論・記号学に留まらない、日本記号学会の成り立ちや活動にも深く関わっている。 そして、歴史的な歩みを踏まえて今、我々が生きる環境として全面化したAIをはじめとする情報技術のあり方をめぐる問題──我々自身を含めた生命・社会・技術のあり方の問題──について、基礎情報学をはじめとするネオ・サイバネティクスの最新の知見を踏まえて、今後の可能性を描いていきたい。
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(発表概要)「デザインのサイバネティクス/サイバネティクスのデザイン:「情報の時代のデザイン」についての探求」(椋本輔) 我々は今、最新の状況として、大規模言語モデルなどによる生成AIやAIエージェントの日常への普及に直面している。しかし、それら全ての実現の前提として、スマートフォンを含めたパーソナルコンピューターや、様々な機器同士を結ぶインターネットなど、デジタル情報技術そのものが数十年以上の長い時をかけて、我々の生きる環境として全面化してきた。その全面化の前夜とも言うべき1996年から97年にかけてなされた、「情報の時代のデザイン(Design in the Age of Information)」 と題する研究プロジェクトおよびアメリカ国立科学財団(NSF)への報告・提言がある。 その中心メンバーだったクラウス・クリッペンドルフが、そこでの研究・議論を発展した書籍が、UI/UX デザインに関する古典的文献としても広く知られる『意味論的転回:デザインの新しい基礎理論』 である。クリッペンドルフによる一連の取り組みは、情報技術をめぐる問題意識について、基礎情報学とも深く通じ合っている。それは単なる類似ではなく、クリッペンドルフの「デザイン」をめぐる理論的考察もまたネオ・サイバネティクスの一環であるが故の必然である。さらに、クリッペンドルフという個人の探求の歩みは、まさにファーストオーダー・サイバネティクスからセカンドオーダー・サイバネティクス(ネオ・サイバネティクス)への学問的な形成過程に重なっている。 本発表では、書籍・第7章(「ネオ・サイバネティクスに基づくデザイン論:コミュニケーションを通した関係性の制御としてのデザイン」)の内容から、戦後ドイツのウルム造形大学(1953〜68)での記号理論やファーストオーダー・サイバネティクスを踏まえたデザイン教育・研究に始まり、その後アメリカに渡ってネオ・サイバネティクスの揺籃の場であるイリノイ大学のBiological Computer Laboratory:BCL(1958〜74)に関わった、というクリッペンドルフの歩みを紹介する。 その歩みが象徴している「ネオ・サイバネティクスに基づくデザイン論」の道筋は、関係者間のコミュニケーションを主題化する点、さらに「自分たちの営み自体を理論と実践の循環システムとして再帰的/反省的に捉え続ける」という点において、「サイバネティクスの思想」の核心に根ざしており、また思想を体現することを目ざしてきた。さらに、基礎情報学をはじめとするネオ・サイバネティクスの最新の知見によって今、そしてこれからの「情報の時代のデザイン」の可能性について考えていく。
「思想としてのオートメーションと自由:メタデザインとしての「多様性工学」とVSM(存続可能システムモデル)」(河井延晃) 本発表は、いささか複雑で難解な議論に陥りがちな「Viable System Model(VSM/存続可能システムモデル)」研究を、扱いやすい概念構成へと再編し、VSM研究の応用や発展の導入的議論とする。 具体的には、英国サイバネティクスの展開や応用を代表するS. ビーアのVSMを、独自に扱いやすい三項図式論として提案している(書籍・第6章「思想としてのオートメーションと自由:VSM(存続可能システムモデル)における多様性工学とメタデザイン」)。もっとも本発表は、VSMを処方箋的な管理技法として提示するのではなく、現代的な批判点も含めて再読することで、実践的理解へと組み替えることを狙う。 特に、ビーアの仕事を戦後サイバネティクスの発展史の中に位置づけると、その先駆性と独自性がいっそう際立つ。とりわけ、戦後のサイバネーション(サイバネティックス+オートメーション)をめぐる議論や、その社会科学的受容(組織・社会への応用)という観点から見れば、ビーアはサイバネティクスをマネジメント・サイバネティクスへと押し広げ、転換した稀有な研究である。 その際に焦点となるのは、VSMが「多様性工学(variety engineering)」として、自由や多様性を存続可能性の条件に据えている点である。ビーアにおいて「自由をデザインする」とは、1950〜60年代のデザイン思想やテクノロジーの議論を取り込みつつも、その後のポストモダンな議論への回収は企図しない。むしろ、複雑な環境に対して組織が存続可能性を保つための、メタシステム(反省作用をもつ仕組み)の設計課題として扱う。 また、ビーア自身がチリのサイバーシン計画に関与したことも踏まえ、オートポイエーシス以後の議論やセカンドオーダー/ネオ・サイバネティクスの系譜を視野に入れるなら、VSMはそれらに先行する問題構成(メタコミュニケーションやメタシステム)を含む。 本発表ではこの点を手がかりに、デザイン研究の文脈などにおいて、他の章における議論と交差する論点も提示したい。
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