「情報」という言葉ほど常日頃使われているにもかかわらず、そのコノテーションが曖昧なものはない。ニュースや書籍などによって得られる「知識」の同義語として使われるかと思えば、工学的には「エネルギー」「物質」とは区別された或る統計的な量として定義され、またコンピュータが普及した今日ではバイナリ化された記号・音声・映像データという意味をも担うに至っている。
本書は「機械(=人工知能)」・「動物」・「ヒト」それぞれと「情報」との関係を考察するなかで「情報なるもの」の本質に迫ろうとするスリリングでチャレンジングな試みである。 一般的に言って「情報」は「知識」の同義語と見なされる際には、「言語」とオーバーラップさせて理解されることが多く、またビットを単位とする「情報量」と見なされるときには人間から独立な格別な存在と解されることが多い。しかし、本書ではこの①「情報」と「言語」との等置、②「情報」の独立自存、という二つのドグマを回避した地点に新しい「情報」概念を打ち立てることが目指されている。端的にいえば「情報」とは「生命」の意味付与作用にほかならず、したがって「生命」を抜きにして「情報」を論じることは意味を成さない。「情報は生命とともに誕生した」のである。
このテーゼは、これから「情報」について考える者のスタート地点になるはずである。このテーゼによって、「情報」が単なる「言語」的意味の領域にとどまらず、価値や情動の領域にまで拡張される拠点を与えられると同時に、何らかの生命相互のコミュニケーションを離れては「情報」が端的に無意味となり、没概念となり了わることがはっきりと宣言されたからである。西垣「生命情報論」にとって非常に重要な著作である。